練習のたび、試合のたび、俺は死んで帰って来る。
すでになくなりかけていた自信も自己肯定感も、空っぽになっていた。
あの日もそうだった。
死んで帰ってきた。
いつも通りじいちゃんが居間にいて、いつものように俺に言った。
「なんや、今日もやられてきたんか。情けない」
いつもなら「へいへい」と軽くあしらえた。
だけどその日は、虫の居所が悪かった。
試合に負けたから。
いや、違うな。
これはいつものことだし。
とにかく、機嫌が悪かった。
だから、いつもはしないような口ごたえを、いつもはしないような似合わない口調で返した。
「おいぼれジジイに何がわかるんだよ」
「おお、なんや。今日は饒舌やなぁ。そんな口の利き方は、わしから一本取ってからにせぇ」
「あんたから一本なんてとれるわけないだろ。女子からだって一本取ったことないのに」
「なんや、急に弱気になったか。だったら気合入れて稽古せぇ」
「剣道なんてもうやらねえよ。チャンバラごっこで倒れるくらいなら、ほんとに死んだ方がマシだよ。大体俺がいつ剣道やりたいって言った? あんたが勝手に……」
そう言っている間に、俺はものすごい力であっという間に庭先に投げ出されていた。
訳が分からないまま視線を泳がせていると、焦点が合った先に、鬼の形相のじいちゃんが、孫である俺に木刀を突き付けていた。
「死んだ方がマシなんて、軽々しく口にするな」
じいちゃんの声は、落ちてきた雷のようにビリビリと俺の体を震わせた。
木刀の先端を俺に向けたまま、じいちゃんは俺に迫って来る。
その気迫と恐怖で、息ができなかった。
「お前は自分の生まれた日を忘れたか。お前は平和の象徴やぞ。むごく空しいだけの戦争が終わりを告げ、誰も無駄な死を遂げることも、その死を悲しむこともしなくて済む、新しい世の中が始まった日やぞ。皆が再び立ち上がった、日本人にとって誇るべき希望の日やぞ。それをなんや。そんなお前が「死」なんて言葉を口にするとは、恥やと思え」
そしてじいちゃんは、剣道家独特の奇声を発しながら、木刀を振り上げた。
俺はもう、目をぐっとつぶることしかできなかった。
__死んだ。
咄嗟にそう思った。
バシーンと乾いた音が辺りに飛び散った。
だけど、衝撃はなかった。
__死んだのか?
そっと目を開けると、俺は筋張った腕に、ぐっと抱き留められていた。
その逞しい胸板の中で、俺はその人物が誰かを認めた。
俺と同じカッターシャツに、学生服のズボン。
いつもと違うのは、整った顔立ちが、青ざめて歪んでいたことだろうか。
まるで、出会ったことのない恐怖と戦っているようだった。
その肩越しに、揺れるサラサラのロングポニーテルを見つけた。
息が上がっているのが、全身の動きでわかった。
その後ろ姿は、凛々しく頼もしかった。
ただ、ちらりと見えた竹刀を握る手が、かすかに震えているように見えた。
すでになくなりかけていた自信も自己肯定感も、空っぽになっていた。
あの日もそうだった。
死んで帰ってきた。
いつも通りじいちゃんが居間にいて、いつものように俺に言った。
「なんや、今日もやられてきたんか。情けない」
いつもなら「へいへい」と軽くあしらえた。
だけどその日は、虫の居所が悪かった。
試合に負けたから。
いや、違うな。
これはいつものことだし。
とにかく、機嫌が悪かった。
だから、いつもはしないような口ごたえを、いつもはしないような似合わない口調で返した。
「おいぼれジジイに何がわかるんだよ」
「おお、なんや。今日は饒舌やなぁ。そんな口の利き方は、わしから一本取ってからにせぇ」
「あんたから一本なんてとれるわけないだろ。女子からだって一本取ったことないのに」
「なんや、急に弱気になったか。だったら気合入れて稽古せぇ」
「剣道なんてもうやらねえよ。チャンバラごっこで倒れるくらいなら、ほんとに死んだ方がマシだよ。大体俺がいつ剣道やりたいって言った? あんたが勝手に……」
そう言っている間に、俺はものすごい力であっという間に庭先に投げ出されていた。
訳が分からないまま視線を泳がせていると、焦点が合った先に、鬼の形相のじいちゃんが、孫である俺に木刀を突き付けていた。
「死んだ方がマシなんて、軽々しく口にするな」
じいちゃんの声は、落ちてきた雷のようにビリビリと俺の体を震わせた。
木刀の先端を俺に向けたまま、じいちゃんは俺に迫って来る。
その気迫と恐怖で、息ができなかった。
「お前は自分の生まれた日を忘れたか。お前は平和の象徴やぞ。むごく空しいだけの戦争が終わりを告げ、誰も無駄な死を遂げることも、その死を悲しむこともしなくて済む、新しい世の中が始まった日やぞ。皆が再び立ち上がった、日本人にとって誇るべき希望の日やぞ。それをなんや。そんなお前が「死」なんて言葉を口にするとは、恥やと思え」
そしてじいちゃんは、剣道家独特の奇声を発しながら、木刀を振り上げた。
俺はもう、目をぐっとつぶることしかできなかった。
__死んだ。
咄嗟にそう思った。
バシーンと乾いた音が辺りに飛び散った。
だけど、衝撃はなかった。
__死んだのか?
そっと目を開けると、俺は筋張った腕に、ぐっと抱き留められていた。
その逞しい胸板の中で、俺はその人物が誰かを認めた。
俺と同じカッターシャツに、学生服のズボン。
いつもと違うのは、整った顔立ちが、青ざめて歪んでいたことだろうか。
まるで、出会ったことのない恐怖と戦っているようだった。
その肩越しに、揺れるサラサラのロングポニーテルを見つけた。
息が上がっているのが、全身の動きでわかった。
その後ろ姿は、凛々しく頼もしかった。
ただ、ちらりと見えた竹刀を握る手が、かすかに震えているように見えた。


