剣道なんて、大嫌いだった。

 視界の悪い面の中に閉じ込められるのも、自分と同じように面で覆われた顔の見えない相手と対峙するのも、足を踏み出した時の床を「ダンッ」と叩く大きな音も、狂ったような奇声も、飛んでくる竹刀も。
 
 怖かった。

 剣道の全部が怖かった。

 ちっとも強くもなれなくて、自信はどんどん失われていくばかりだった。

 染みついた防具臭さが、それをさらに助長した。


「これが真剣だったらどうする。お前はとっくに死んでるぞ」


 だったら俺はもう、何度も死んでいる。

 死ぬことに、慣れてしまっている。

 だってこれは竹刀だから。

 所詮、竹刀だから。

 ほんとに死んだりしない。

 めっちゃ痛いけど。