「じゃあさ、もうやめようぜ。誕生日会」


 いつの間にか友樹は立ち上がっていて、振り上げられた美緒の細い手首を掴んでいた。

 友樹はその手をそっと下ろすと、俺に鋭く冷たい視線を向けて話し続けた。


「みんなこうして享ちゃんの誕生日お祝いしに来てるんじゃん。それを主役である享ちゃんがぶち壊すんならさ、もうこのパーティー、意味なくない? 享ちゃんも迷惑そうだし」

「ちょっと友樹、何言ってんの? 享ちゃんだって、本気で言ってるわけじゃないもんね? そんなこと。おじいちゃんとあんなことあったから、ちょっとすねてるだけだよね? だって享ちゃん、去年まではなんだかんだ言って楽しそうだったじゃん。それにおじいちゃんの話だって……」

「美緒には関係ないだろ? 俺の気持ちなんてどうせわからないくせに」


 感情のまま激しく言葉を発する俺の前に、友樹が美緒をグイと下がらせて立ちはだかった。


「守ってもらっておいて、関係ないはないだろ」


 その言葉に、あの日の光景が頭をよぎって、胸にさっと鋭く傷をつけていく。


「美緒、もうほっとこうぜ」

「友樹……」

「主役がこんな調子じゃ、俺たちのやってることはただのお節介だろ?」

「でも……」

「なあ享平」


 その冷たい呼びかけに、寂しさが一気に募る。


「自分だけが傷ついてると思ってる?」

「……は?」

「お前のその態度が、その死んだ目が、その投げやりな言葉が、今度は誰かを傷つけてるとは思わないの?」


 その言葉にはっとなって辺りを見た。

 何事かと両親がこちらをうかがっている。

 口をぽかんとさせるだけで、何も言ってこないけど。

 だけど、今の話を両親に、殊更母さんに聞かれていなかったか、急に不安に襲われた。

 目の前には、顔を歪めて怒りと不満をあらわにしている友樹がいる。

 そしてそのそばには、美緒。

 その姿に、その表情に、胸が押しつぶされそうになった。

 せっかくかわいくまとめた髪が、俺と友樹の間に割って入ったせいで、少々乱れていた。

 息は荒く、瞳が震えているように見えた。

 美緒の美しい顔に、悲しみや恐怖が滲んでいるように見えた。

 いつも、花火のようにはじける笑顔で、夏に凛と咲くひまわりのような彼女なのに。

 こんな美緒の顔を見るのは、初めてじゃない。

 またそんな顔をさせてしまった。


 遠くの方では、相変わらず花火が派手に打ちあがっていた。

 堂々と花開く姿。

 雄々しい音。

 命がけの業。
 
 ただただまぶしく美しい花火が、気まずく顔を歪める俺たちを、そのキラキラした火花で照らした。