「享ちゃんはいいなあ」


 バラバラと爆ぜる花火の中で、美緒はしみじみと言った。

 その声に、俺の視線が花火からそちらに行く。

 花火の強い光に照らし出された美緒の横顔は美しく、いつまでも見ていたいと思った。


 美緒は毎年そう言う。

 だから俺も、その先を聞かなくたって、美緒の次の言葉がわかる。


「誕生日に花火って、すごく贅沢だよね。しかも打ち上げ花火。こんな特等席でケーキとか食べながら見られてさ」


__ほらね。いつものこと。いつものフリ。


 それに俺は、いつものように返せばいいんだ。

「美緒んちからも見られるだろ?」って。

「何にも羨ましくないだろ。こんなお盆の真っただ中で、しかも終戦の日に」って。

「こんな日が誕生日なんて、なんにも羨ましくないじゃん。ちょっと不気味というか、不吉だし」って。


 そしたら美緒は言うんだ。


「そんなことないよ。日本人にとって大切な日でしょ?」って。


「「享平」は、平和の象徴でしょ?」って。


 抱きしめたくなるほど、愛くるしい上目遣いで、そう言うんだ。

そんな姿に、俺は鼻息を荒くして、なんとか理性を保つために太ももを密かにつねるんだ。


 だけど、今日の俺は違った。

 太ももの上で、ぐっとこぶしを作った。


「人の気も知らないで」


 俺の返しがいつもと違うから、当然のように美緒も、「え?」ときょとんとした声を出す。


「おまえはのん気でいいよな、こんな日が誕生日で羨ましいなんて」

「享ちゃん?」

「だいたいさ、高校生にもなって誕生日会なんて盛大に開いてさ、恥ずすぎだろ。もう小学生じゃないっつーの」

「そんなこと……」

「花火なら自分んちで見れるんだからさ、美緒だってわざわざケーキなんか作って来てくれなくてもいいよ。他に一緒に見たい相手だっているだろうしさ」

「享ちゃん、どうしたの? なんか怒ってる?」

「ああ、心底機嫌は悪いよ。ずっとずっと。そりゃそうだろ。こんな日に誕生日なんて、マジで嬉しくもなんともないし。お盆に終戦記念日。ほんと不吉でしかないだろ。なんでこんな日が誕生日なんだよ。なんでこんな日に生まれたんだよ。こんな日に祝われても、こっちは全然嬉しくもなんともないんだよ」

「そんな……みんな享ちゃんのために集まって、準備して……おじいちゃんだって享ちゃんのために毎年花火を」

「だからそれが迷惑だって言ってるだろ。自分の名前のついた花火なんて、この歳で喜ぶとでも思ってんの? 年寄りの自己満足に振り回されて、ほんとうざいんだけど」


 そこまで一気に言ったところで、目の端で、勢いよく上げた美緒の手のひらを捉えた。

 同時に、せっかくの美しい顔が怒りと悲しみで歪むのも見つけた。

 咄嗟に顔をそらして目をぐっと閉じた。

 だけど次の瞬間襲ってきたのは、とても冷たくて低い声だった。