「ほい、完成」と友樹が言うのと同時に、その手が、美緒の両肩にそっと触れた。

 いや、きゅっと握った。

 いや、抱いた?

 とにかくその一瞬、俺の胸のあたりがモヤりとした。

 そんな気持ちを抱いている間に、そのまま友樹が美緒の体を回転させ始める。

 一周するたびに美緒の体に触れる、友樹の手。

 一周するたびに、モヤモヤとイライラが交互にやってくる俺。


 回転が終わると、美緒はふっと短い息を吐き出した。

 先ほどまで醸し出していた甘い空気がその一瞬で吹き飛び、急にピリリと緊張感が走る。


「もっと右、右」

「そのまままっすぐ」

「ああ、ちょっと右行き過ぎ、もう少し左、三十度ぐらい」

 
__エラい丁寧だなあ!


 楽し気に行われるスイカ割りを、俺は先ほどからまとわりつくモヤっとした感情を抱きながら、端の方で腕を組んで見ていた。


「そこそこ、行け!」


 中段で棒を構えた美緒が、すっと息を吸うのがわかった。

 足元が、前後に細かく動く。

 そして棒が振り上げられると、


「メェーーーーーン」


 その勢いに、そのすがすがしさに、息をのんだ。

 花火の轟音と共に、その声は、いよいよ闇を濃くした空を貫いていった。

 地面には、見事に真っ二つになったスイカが転がっていた。