トイレで精神統一をしてから縁側に戻ると、庭にはビニールシートが敷かれ、その真ん中に友樹が持ってきたスイカが横たわっていた。

 先ほどまでアルバムに興じていた両親も庭に下りている。


「おっ、やっと主役が戻ってきた」


 そう言うなり、友樹は俺に「本日の主役」と書かれた金ピカの襷をかけ、目元に手拭いを巻き始めた。

 毎年恒例、スイカ割りが始まる。


 危なげな足取りで庭に下りると、十回体を回される。

 手に握るのは竹刀ではなく、友樹が昔どこかで拾ってきた太めの棒だ。

 このスイカ割りイベントの創始から、かれこれ数年の付き合いになる。

 遮られた真っ暗な視界の中を、ふらつく体の重心をしっかり保って前に進む。

 俺だって幼いころから剣道をたしなみ、最近までやっていたんだ。

 カッコ悪い所は見せられない。

 本日の主役だし。

 浴衣の裾に弄ばれながら、俺はそろそろと足を踏み出す。


「違う違う」

「そっちじゃない」

「いや、こっちだって」


__どっちだよ!


 カッコつけて伸ばしていた背筋が、次第にへっぴり腰になる。

「そこそこ」とはしゃぐ声をとらえた後、振りかぶって一気に切り込む。


__メーーーン!


 棒の先からビリビリと手のひらに衝撃が走った。

 手ごたえは、毎年同じだ。

 棒の先が地面にめり込む感触ばかりで、叩けばコンコンと軽い音が鳴る、未だ野菜・果物論争の絶えない果実を割った感触はない。