美緒が俺のそばにちょこんと座った。

 ふわふわとした柔らかい毛が躍るうなじに、目がひきつけられる。

 今日はいつにもましていい匂いがする。

 普段から道場で見ていたはずの裸足も、浴衣から伸びる素足にはなぜかどぎまぎしてしまう。

 その爪の先に、普段は塗らないネイルを施しているからだろうか。


 どこを見ていいのかわからない。

 同じ空気を吸っていいのかわからない。

 何を話していいのかわからない。


 もじもじとしながらさらに距離を取ると、隣の友樹の腕に体がぶつかった。

 すると、友樹はきょとんとした顔を見せた。

 行き場を失くしてもなお漂ってくる美緒の甘い空気に気圧されて、「母さん、ケーキ」と声をひっくり返しながら、俺はとうとうその場を立ち去った。

 去り際に、遠くの空をちらりと見上げた。

 色とりどりの花火が次々と打ち上げられていた。