美緒は、女子としての自覚がいつも足りない。

 っていうか、自分の可愛さを、もっと自覚した方が良い。


 美緒は、俺と違って剣道がめちゃくちゃ強かった。

 何度美緒に負かされたことか。

 背筋をすっと伸ばして悠々と歩くたびに揺れるサラサラのポニーテールは、彼女の強さの象徴に見えた。

 竹刀を持たなくてもその立ち姿は凛々しく、思わず目を細めてしまう。

 竹刀を持てばその凛々しさが一層際立ち、見る者の視線を釘付けにする。

 切れ長の目に宿る光は鋭く、面の中からその目でこちらを見据えられると、全く身動きが取れなくなる。

 そしてぐいと詰め寄られた瞬間には、俺はいつも床の上で伸びきっている。

 手も足も出ない。

 それなのに、


「ねえ? 享ちゃん?」


 このギャップ。

 この「享ちゃん」と甘えるような呼びかけに、俺は弱い。

 剣道をしている時のあの鋭い目が嘘のように、瞳をくりくりとさせて俺を上目づかいで見てくる。

 防具臭さとは無縁のいい香りと清潔感を放ちながら、美緒は無防備に俺に寄り添ってくる。

 今にも、手も足も出てしまいそうになる。


「そんな怖い顔しないでよ。ちゃんと「享平」が打ちあがるまでには、いつも間に合ってるでしょ?」


「享平」と言うのは、じいちゃんが俺のために作る、じいちゃんのオリジナルの花火だ。

 いつも花火大会のどこかで打ち上げられる。

 たいてい花火大会終盤の、大玉に紛れて。

 子煩悩ならぬ孫煩悩。

 まったく職権乱用も甚だしい。