ちなみに直樹くんは、一年生のうちに『家庭の事情』で中学を転校している。
――そして、やはり『茜くん』は、未来から来た蒼だったらしい。
蒼が歩道橋に来れたのも、彼に教えてもらったからだったそうだ。
あの新聞の『女子高生』とはつまり、私のことだったんだろう。あれは過去ではなく、未来の新聞記事だったのだ。
不思議だったのは、蒼の家に戻ると『茜くん』から託されたという例のノートが跡形もなく消えていたことだ。……そして、少し前まで蒼の家に来ていたという『彼』も。 付け加えれば、お母さんでさえも『茜くん』の存在をきれいさっぱり忘れていた。
……だから今、彼が『いた』ことを覚えているのは、私と蒼だけだった。
でも私たちはそのことに納得して、『きっと元の時代に帰ったんだろう』と結論づけた。ノートが消えたのは、私が助かったからだ。
「オレは奇跡をつかめたんだな。」
蒼はそう言って笑った。
……けど、結局私たちは付き合っていない。お互いの気持ちは確認しているも同然なのになぜなのかというと、それは蒼が、「二年後、『茜』と同じ年になってから告白する。」と言ったからだ。
「根拠はないけど、二年後、全部思い出す気がするんだよな。ひなと一緒に暮らしてた二週間、ひなを失った『向こうの世界』での二年間も。
だから、全部思い出してからオレの気持ちをお前にとって言うよ。……『茜』も、きっとお前に好きだって言いたかったはずだから。」
待っててくれるか、と言うので、しょうがないな、とうなずいた。
蒼が私を好きでいてくれるだけで、私はそもそも嬉しいし、それに。
「私は蒼に十年近く片想いしてたんだよ。両片想いの二年間なんて、大したことないよ。」
恋する乙女は強いのだ。
*
――そして、今。
高校三年生になった私たちは、友達以上恋人未満の関係を二年間続けていた。
お互い部活のない日はいつも一緒に帰るので、周りの友達には付き合ってるのだと思われている。……わざわざ訂正してはいないけれども、実際は、残念ながらまだ『その日』は来ていない。
理子だけは事情をある程度知っているので、「めんどくさいな、あんたたち。」と言われてるけど。
「あー、明日英語の単語テストだ、最悪。くそ、今から勉強するのダルいな〜。」
いつもの帰り道を並んで歩きながら、蒼がボヤく。
……でも、そんなことを言いながら結局ちゃんと勉強して、いい点数を取るのが蒼だ。
「帰ってマジメに勉強するくせに。マジメだもんね、蒼。」
「うるさいな。別にマジメとかじゃ――」
ぶわり。
不意に――蒼の言葉を遮るようなタイミングで、突風が吹いた。
瞬間的に台風が来たのかと思うほど、強い風。
「っと、すごい風だったね、今…………、蒼?」