――幼なじみが歩道橋から落ちて亡くなったと聞いたのは、彼女が死んだ翌日のことだった。後頭部を強く打ち付けての即死だったらしい。

最近はあんまり話せてなかったけど、幼稚園のころからずっと好きだった幼なじみだった。その気持ちは、中学に上がっても変わりはなかったけど――年齢が上がるにつれて疎遠になっていって、グループも違って、昔みたいに気軽に話せない空気になってたんだ。
……葬式で、白木の棺の中に入れられた彼女は、まるでただ眠っているだけのように見えた。斎場に響くすすり泣きも、なんだか現実感がなくて。
オレは、葬式がつつがなく終わりあいつが小さな骨になっても、何事も無かったかのように日常が再開しても、ぼんやりと日々を過ごした。もともとあいつとの会話が組み込まれていなかった日々は、変わらず過ぎていった。


「ごめん。僕があのあとも彼女についてあげられてたら……。」

葬式が終わった翌日、佐古は泣くのをこらえるような顔でオレにそう言った。
――あいつのことは好きだったけど、オレはその時すでに失恋していた。そう、あいつはオレの親友といい感じだったんだ。
あいつが死んだ日も、親友……佐古とひなは一緒に出かけていた。勉強会をするために歩道橋の近くにあるカフェに行って、店を出て、そのまま解散したらしい。彼女におかしな様子はなかったから、そのまま解散したんだという。
一緒にいてあげていたら何か違ったのかも、と苦しそうに言う佐古に、お前のせいじゃねーよ、となぐさめた。佐古だってあいつのことが好きだったんだから、きっとつらいだろうと、そう思って。

『蒼。僕、宮野さんのことが好きになってさ。笑顔がかわいいよね。二人、幼なじみだったよね? 宮野さんのこと、教えてくれない?』
『宮野さん、蒼のことが好きなんだ……。そっか、じゃあ僕はあきらめた方がいいのかな……。でも、好きなんだよなあ……。』

佐古は親友だ。
辛そうにそう言われれば、オレもあいつが好きなんだ、とはとても言えなかった。
だからあいつのことをいろいろ教えたし、アドバイスもした。心が傷つく音がしたような気がしたけど、それでも。
……あいつだって、こんな愛想もなくて、グループが違くなったってだけで話しかけることもしなくなったやつよりも、優しくて人当たりがいい佐古の方がいいはずだって、無理やり自分を納得させて。


『ずっと前から好きでした。蒼がもしよければ、私と付き合ってほしいです。』


――でも。
あいつからそんな手紙が来た時には、心底嬉しかった。本当だ。
今どき古風な告白方法は、スマホのメッセージで告白する手軽さを選ばない生真面目なところと、直接言えない内気なところがあるあいつらしかった。やっぱりそんなところも好きで、思わず佐古のことも忘れて返事をしそうになったほど。
……手紙を見つけた時、佐古が一緒にいなかったら、オレはきっとOKの電話をあいつに掛けていただろうと思う。

『それ、宮野さんからの?』
そう、オレに尋ねたときの佐古は、どんな顔をしていたのか、わからない。
――裏切りもの。
声の裏で、そう、オレを冷たくののしる声が聞こえて。頭が真っ白になって、それで、
気がつけば、


『大して親しくもないやつからこんなんもらったって、気持ち悪いだけだろ。』