レストランがあるという、国道の向こう側の階段を上り切ったあたり。
……そこに、久保さんが立っていた。

「な、なんで……。」

久保さんがここに?
彼女は塾か何かの帰り道だったのか、塾指定らしき缶バッジをつけたバッグを持っている。
驚いているのは久保さんも同じようで、軽く目を見張っていたが――その奥に、直樹くんの姿を認めてからは、みるみる表情を険しくさせた。

「ちょっと……なんであんたが直樹と二人でいるのよ……!」

つかつかと歩いてくる久保さんに、腕を強く掴まれる。欄干から引き剥がされ、よろめいてたたらを踏む。

「まさか二人で会ってたって訳じゃないでしょうね……!?」
「……ふ、たりで出かけてたよ、勉強会してたの、」
「ハア⁉」

どん、と突き飛ばされる。
そんなに強い力ではなかったけど、ヒールのせいでバランスがうまくとれず、私はしりもちをついた。

「い、いたっ……!」
「なんで二人で勉強会なんてしてんの!? あたし二度と直樹に近づくなっつったよな⁉」
「っそうだけど、了承した覚えなんてない……!」

久保さんの迫力はすさまじい。
正直、怖い。もう直樹くんには近づかないって、逃げてしまいたい。
でも、誰かに強制されて、誰かとの関係を変えることは、きっと間違ってることだから――。

「なんでよ……! あんたは蒼のことが好きなんじゃなかったの⁉ どうして直樹にまで手ぇ出そうとすんの⁉」 
「蒼にはもうとっくにフラれた! 知ってるでしょ……!」
「だとしても! フラれたばっかで他のやつとデートなんて、どんな神経してるわけ⁉ ホント意味わかんないんだけど! ねえあんた、直樹のことなんて好きでもなんでもない、どうでもいいんでしょ⁉ ならどうして……どうして邪魔すんだよ……!」
答えろよ、と久保さんは言う。あたしはずっと好きだったのに、どうして奪うんだ。どうして――。

(久保さん、ごめん、)

彼女は怒っているように見えるけど、きっと心の内では泣いていた。
……そうだよね。むかつくよね。
ずっと好きだった相手に、好きな人がいて。その好きな人の好きな人が、その気持ちにも応えずに思わせぶりな態度を取ってたら、腹が立つに決まってる。
でも一方で、彼女は事実私たち二人には無関係で――私には「あなたには関係ないでしょ」と言う権利がある。

(たぶん、間違ってないんだ。久保さんも私も……。)

久保さんには怒るそれなりの理由があるし、私には彼女を突き放す権利がある。
久保さんは友達三人で私を囲んで脅しじみた牽制をしたけど、暴力を振るったわけでもない。クラスの人を誘導して私をいじめたりもしていない。やろうと思えばできたはずなのに。
……でも。

「どうでもよくなんかないよ……。」
「はあ……⁉」
「恋愛の『好き』ではまだないのかもしれない。でも、直樹くんのおかげでようやく最近思えるようになったんだ。直樹くんと一緒にいれば、蒼への気持ちに折り合いをつけられるかもしれないって、前を向けるかもしれないって、好きになれるかもしれないって。だから……!」


「――それ、ほんと?」


声がした。