――日曜日。勉強会前日。
私はクローゼットの前で、悩んでいた。

「着ていく服がない……!」

よそいき用の可愛い服は茜くんとのデート(?)に着てしまったので、着れないし。
男の子と出かけることなんてないから、それらしい服を全然持ってないのだ。そのことを明日の用意をしようとしてはじめて認識した。我ながら迂闊すぎる……。
ちょっと理子と出かける用くらいの服はあるけど、一応は男の子と二人で会うわけだし。

「もう、買いに行っちゃおうかな〜……。」

まだ昼といっていい時刻だし、ショッピングモールは開いている。サッと行ってサッと帰ってくれば、そこまで時間もかからないはずだ。そう遠いところにある訳でもないし。

「……よし!」
この勉強会をきっかけに蒼への気持ちにけじめをつけて、直樹くんの気持ちにきちんと向き合うのなら、それなりの態度で臨むべきだよね。
私はそう決めると、立ち上がる。

「服、買いに行こう!」


出かける準備をととのえて階段を下りていくと、リビングでは茜くんがスマホを片手にテレビを見ていた。地元の店や施設を紹介するローカル番組だ。
上の部屋で勉強していた私が階段を下りてきた気配に気がついたのか、茜くんがテレビから視線を外してこちらを見る。

「ん、ひな、なにか飲み物? お茶なら入れて部屋まで持ってってやるけど、」
「あ、ううん、大丈夫、ありがとう。ちょっとそこまで出かけてくるね。」
「出かける?」

茜くんはそこで、私が部屋着から着替えているのに気がついたらしい。ちょっとだけ目を丸くした。

「え、今から? もう三時だけど。けっこう微妙な時間じゃねえ?」
「あー、えっと……ちょっと理子と気分転換に。すぐに帰ってくるよ!」

訝しげな顔をされ、思わずウソをついてしまった。
茜くんはふうん、と呟いてから片眉を上げた。

「大丈夫かー? テスト直前だろ? 遊びに行ってていいの?」
「もう、だから、ちょっとした気分転換なの! 大丈夫だってば! ……あ、そうだ、帰りに何か買ってくるものとかある? スーパー寄ってから帰るよ。」
「はいはい……んー、そうだなあ……。」茜くんが少し考えるそぶりを見せる。そして、「あ、じゃあしらたき買ってきて。今日の夜、肉じゃが作るつもりだから。ひな、肉じゃが好きだろ?」
「え、うん、大好き! やったあ、帰ったら私も手伝うね!」

しらたき入りの肉じゃがは私の大好物だ。
好きな食べ物でテンションが上がるのはちょっと恥ずかしいけど、嬉しい。

「ま、ひなもう少しでテストだしな。スタミナつけて欲しいし……で、もう行くんだろ?行ってらっしゃい。」
「うん! 行ってきます、茜くん!」

笑顔でうなずき、玄関扉を開けて外に出る。

……そして、しばらく歩いたところで、私はぱたりと足を止めた。

「……明日のこと、言えなかったなあ。」

そう。
――私は結局、直樹くんと遊びに行くことを茜くんに言えないでいた。
ちなみに直樹くんには行ける、とすでに連絡してある。だけど……。
……私は、茜くんとこれ以上気まずくなるのは、どうしてもいやだった。
直樹くんと出かけると言った時の、彼の反応を見るのが怖かったのだ。