そこまで言って、私ははっと我に返った。
 あわわ、まずい。こういうの、めちゃくちゃ思わせぶりな行動なんじゃないのか。
 私ってば、本当に無神経だ。未だに返事を待たせているくせに――、

「……あのさ、ひなちゃん。」
「え、はいっ!」

反射的に背筋を伸ばして、返事。
……思わず敬語になってしまった。ただ、顔を赤くしたかれど、直樹くんに気にした様子はなかった。
その代わりに、彼はおずおずといった態度で口を開いた。

「次の月曜日、一緒に出かけない?」
「……えっ?」
「ほら、しあさっては創立記念日で学校、休みだろ。だからさ、二人で出かけて、ちょっと遊んだり、勉強会したりしないかって……。」

僕、最近少し離れた場所でいいカフェ見つけたんだよ――と直樹くんが続ける。「勉強とかもOKなところでさ。紅茶と日替わりのケーキが美味しいんだ。」
一緒に出かけて、勉強会。雰囲気のいいカフェで日替わりのケーキを食べながら。
……うわ、正直ちょっと楽しそう。
率直に言って、私はそう思った。
それに、わからないところがあったら直樹くんに聞ける、というのはかなり魅力的だ。……直樹くんを頼る気マンマンでなんとなく心苦しいけれど、教え合うのも勉強会の醍醐味なわけだし――私も得意教科なら教えられることもあるかもだし。
ただ問題は……やっぱり、『二人で』というところだ。

(これって、もしかしなくても、デートのお誘い……だよね?)

そう思うと、一気に気恥ずかしくなる。頬に熱が集まる。
……それに、告白をされて、返事を保留にしておきながらデートの誘いに乗るなんて……それってやっぱり、あんまりよくないよね?

「あ、いやほら、デートとかじゃなくて。ただの勉強会だから!」

私が迷っていることを察したのか、直樹くんがそうつけ加える。

「それに、僕がさっき言ったのは、学校からは少し離れたところのカフェだから……誰かに見られてどうこう言われるようなこともないと思うし。」
「そ、そうなの?」
「多分。いろいろ噂サされるの、僕だって別にいい気分じゃないからさ、そのあたりは気を使ってるつもり。」

だからどうかな、と、聞かれて。
私は下を向き、ゆっくりとまばたきをした。
……ふと。これは、いい機会かもしれないと、そう思った。
もうわりと長い時間直樹くんを待たせてしまったし……これまで、自分の気持ちについて考える時間はそれなりにあった。
そろそろ、蒼への想いにけじめをつける時が、来たのかもしれない。

「……うん。わかった、勉強会、しよう。」
「え、いいの?」

 私がそう言うと、直樹くんはやや目を丸くした。私は首を縦に振る。

「うん。あ、でも私が聞いてばっかりになっちゃうかもで、それでもいいならだけど……。」
「そんなの全然いいよ! ひなちゃんに頼ってもらえるなら嬉しいしさ。」

OKしてくれてよかった、って嬉しそうに笑う直樹くんに、私も笑顔を返す。

「あ、でも一応、予定確認してからでもいい? 私が忘れてるだけで月曜日、何かあったかもしれないし。今日中に連絡するから。」
「ああ、うん。それはもちろん。」
「あ、でもたぶん大丈夫だと思うから、一応待ち合わせ場所と時間決めておかない?」
「ん~……じゃあ、駅前の時計台に、午前十時は?」
「わかった。時計台に十時だね!」

私がくり返すと、直樹くんがうなずく。そして、「じゃあ、連絡待ってるから。」と言って、手を振りながら図書室を出ていく。
私も手を振って彼を見送り、それから手元に目を落とした。
……別に、月曜日に予定なんかない。しあさっての予定くらい、把握している。

(でも一応、茜くんに聞いてみようかな。)

と――なんでか、ふとそう思ったのだ。
いや、別にそんな必要はないんだけど。なんとなく、茜くんは直樹くんのことを気に入らないみたいだったから――。

「ふう……。」

さて、勉強再開しなきゃ。全っ然、進んでないし。
月曜日に勉強会をするなら、少しくらいはできるようになっておかなければ。テスト目前のこの時期にあんまりにも出来が悪いと、さすがに直樹くんにも呆れられてしまう。