――そして。
茜くんがうちにやってきてから、あっという間にというかなんと言おうか――約二週間が経った。

 今週は特にこれといった用事もなく、すべきことといえば一週間後にやってくる期末テストの準備くらいである。……そう、高校一発目の期末テストだ。
ただ、『準備くらい』とはいっても、期末テストの勉強には、スケジューリングから実際の勉強まで、けっこうな労力がいる。通常の五教科に美術・音楽・情報などなどの副教科が追加され、とても直前勉強じゃ間に合わないような強化の量になっているのだ。しかも中学時代と違って、理科は化学基礎・物理基礎・生物基礎に、社会は歴史・地理などなどに分かれる。
……私は、今こそ塾には行ってないけれど、このテストの成績次第では塾を探すとお母さんと約束をしている。ので、期末はけっして知らないふりはできないイベントなのである。

 でも、私には強い味方ができた。――茜くんだ。
 頭脳明晰な高校生である茜くんがいれば、きっとこのテストも乗り切れるはずだ――、


(……なんて、つい数日前までは思ってたんだけどなあ。)

 金曜日の放課後。
図書室でひとり参考書をめくりながら、軽く項垂れる。
――茜くんとは、あの直樹くんとの一件があってから、微妙に気まずい。
お互い表面上はふつうだけど(とはいえ、理子いわく私は顔や態度に出るらしいので、ちゃんとふつうにできているかどうかは微妙なところだ)、なんとなくよそよそしくなってしまっている。
なかなか気軽に「勉強教えて!」と頼める雰囲気じゃなくなってしまった。理子と一緒に勉強するのもいいなと私は思うけど、彼女は勉強は一人で集中したい派だ。
……いや、そもそも他人を当てにするなという話だけど……テストがなくたって、茜くんと気安く話がしにくくなったのはふつうにへこむ。

(茜くん、どうして直樹くんのこと、警戒してたんだろ?)

 彼はいい人だ。優しいし気が遣えるし、穏やかで明るい。
 茜くんに好きな人がいるとわかる前なら、「もしかして嫉妬?」なんて思ったりしたかもしれないけど、彼に限ってそれはないということを、私は知っている。

(でも、あの一件があってから直樹くん、あんまりグイグイ来たりはしなくなったから、心は穏やかでいられるけど……。)
 恋愛初心者の私にとって、イケメン男子のアピールはとっても心臓に悪かったから、ちょっとほっとしたりしている。特段親しいというわけでもないが、割と仲がいい、くらいの距離感が心地よい。
それに、あのあと、久保さんたちから何か言われることもなくなった。彼女たちにとってはこのくらいの親しさなら許容範囲なのかもしれない。……まあ、一緒にいたらちょっと睨まれたりはするんだけど。

(そういえば……。)

 私は手元にあるデジタル時計の、日付の表示を見る。
 ……茜くんとデートをした土曜日から、およそ一週間が経とうとしている。
 つまり、あの新聞の日付になるまで、あと三日ということだ。
 自分とその周りのことでいっぱいいっぱいで忘れかけてたけど、茜くんの好きだった女の子の命日まで、もう少しだ。

(それにしても茜くん、特に何をするってわけでもなさそうだったような……。)
 気まずい雰囲気になっちゃったのもあって、あんまり注意して彼の態度を観察していたわけじゃないけど……あからさまに焦った様子とか、切羽詰まってる様子はなかった気がする。
 命日に合わせて、改めて現場に調べに来たってわけじゃなかったのかな?
 本当にただの家出で、ノートを持ってきたのはあれが大切だったからというだけだったんだろうか?