「えっ?」

 予想外の問いに、目を瞬かせる。
 『茜くんらしい』が、何か――? 
 改めて問われて、言葉に詰まった。そんな私を見て、彼は皮肉げに笑う。

「オレらしさ、って言うけどさ。……そもそもひなはオレについて何を知ってるんだ? 十年近く離れて暮らしてて、数日一緒に生活しただけなのに。何を知ることができるんだ?」
「そ、それは……!」

 動揺する。

 ――少しくらいは知ってるよ、とは言えなかった。

 私、知ってるよ、茜くんの目的。やりたいこと。
 好きな人の死の真相を暴くことなんだよね。彼女を殺した犯人がいるなら、それを見つけ出したいと思ってるんでしょう?
 諦めきれない恋のために、消化できない思いのために、必死になっている。あのノートから、それが良く伝わってきた。

 そんな、ことを――。

(言えるわけ、ないよ……!)

 ……だいたい、ノートを盗み見ただけで、彼の思いを『知っている』とはならないだろう。わかったようなふりをすることができるだけだ。
 茜くんの苦しみも覚悟も、茜くんのものだ。

「お前と暮らしてる今のオレが、本当のオレだって、どうしてわかるんだ?」
「あ、茜くん……?」
「……どんなやつでも、多かれ少なかれ何かを偽って生きてる。オレは佐古ってやつがあんまり信用ならない。……思慮深い頬のあいつなら、もう少し考えて動くことくらいできたはずだ。なのに、ひなが告白してすぐに告白した。たしかにそれも両想いになるための戦略といえばそうなのかもしれないけど、オレはあまり納得できない。」

 そう言って、茜くんが私に背を向ける。
 それに。……あいつなら、もう少し考えて動くことくらいできたはずだ、って――。

「どうして、わかるの? 直樹くんが頭がよくて思慮深いって……。」
「……わかるよ。見ればわかる。」茜くんは、小さいけれど力のこもった声で言った。「……それに、蒼が直情型で意地っ張りだからな。ああいうのが親友の方がバランス取りやすいだろ?」
「それは、そうかもだけど……。」

 ――でも、なら。
 どうして茜くんは、私が直樹くんに告白されたって、知ってたんだろう?

 私が、直樹くんに告白されたという話をしたのは、理子だけだ。
久保さんたちは、私たちが二人で空き教室にいたってところを目撃した子から情報を聞き、また、私たちが名前で呼び合っていたから、直樹くんが私のことを好きだと告白した、という推測を立てた。――もしもこれが、蒼への告白からしばらく時間が経っていた場合、きっと告白をしたのは私の頬と思われていただろう。
……理子と茜くんがひそかに連絡を取り合っている? ありえない。そもそも、連絡を取り合っていたとして、それを隠す理由がない。直樹くんと茜くんが連絡を取り合っていたとは、もっと思えない。
話を聞いたとすれば相手は、グループの女子からある程度事情を聴いているだろう蒼かもしれないけど――蒼も別に、茜くんと親しい雰囲気じゃなかったはずだ。ショッピングモールであれほどギスギスしてたわけだし。

(なら、なんで……?)

 私は、ふたたび歩き出した茜くんの背中を見上げる。
 ……茜くんが何を考えているのかがわからなくて、不安だった。