「はじめまして、佐古です。僕もひなちゃんから聞いてます、居候の人だとか。……お言葉ですけど、蒼はともかく、彼女は『うちの』じゃないのでは?」
「幼なじみで今は同じ家に住んでるんだし、別にいいだろ?」
(え、ちょ、ちょっと……!)

く、空気悪くない……⁉ なんで⁉
 もともと直樹くんの頬は茜くんにいい感情を持ってなさそうだったけど――まあ、男女が同じ家に住んでいるっていうのがおかしいって思う人もいるだろうし――なんだか茜くんの雰囲気の頬も剣呑だ。

「それから、迎えに来たと言っていましたけど、別に必要ないですよ。今日は僕が彼女と帰るし、家まで送っていくので。」
「え⁉」

 初耳! 同じ方向だから途中までってことじゃなかったの⁉

「必要ないはこっちのセリフかな。別にお前に送ってってもらわなくても、ひなとオレは帰る家も同じわけだし。それにちょうど帰りにスーパーに寄ろうかと思ってたんだよな。」
「ちょっと、茜くん……。」

 茜くんは笑ってるようにみえるけど、やっぱり目は全く笑っていない。
 そもそもスーパーへの買い出しはつい最近行ったばかりじゃないか。

「――なんでもいいけど、遠慮してくれる?」

 茜くんの声が、冷ややかになる。

「は……? なんであなたにそんなこと決められなきゃいけないんですか?」
「これ以上ひなを困らせるなって言ってるんだ。……いいか、オレは幼なじみで、ひなの親が認めた居候で、しかもこの学校の関係者じゃないから、たとえウワサになっても、いくらでもごまかしがきく。よく知らない他校の先輩とウワサになるのと、同級生とウワサになるの、どっちが長引くかくらい簡単に想像できるだろ?」

 当然後者だ、と茜くんは淡々と言う。よく知らない年上のやつとウワサになったところで、広まり方なんてたかが知れてる、と。

「ひなは蒼に告白したばっかりだろ。そのうえでさらにお前に告白なんてされたら、そりゃあ当然反感を買うに決まってる。ベタベタしはじめたりしたら、尚更だ。お前、話聞いてると、けっこう女子から人気あるんだろ?」
「別に僕らはベタベタしてなんか……。」
「当人たちの意識の問題じゃないんだよ、こういうのは。見てる側がどう感じたかが重要なんだ。『蒼に告白して振られたら、今度は佐古くんに乗り換える気? ふざけんな。』って思われたら終わりなんだよ。」
「……っ!」

 直樹くんが息を呑む横で、私は硬直する。
 ……茜くんの言うことは正しい。実際に私は反感を買ったし、すでに呼び出されて文句を言われてもいる。
 当人たちの問題なんだから放っておこう、と思える人ばかりじゃないんだ――直樹くんのことが好きだったりしたら、なおさら。

「ごり押しでこいつと距離を詰めたりなんかしたら、ど唸るかわかるだろ? 頭がいいお前がそのあたりに気付けてなかったとは思えない。それなのに、わざわざこうやってあえてひなと仲良くしようとしてるってことは、」

 茜くんが声を低める。
 大股で一歩、直樹くんに近づく。


「――お前、ひなのことなんて、別に好きでも何でもないんじゃないのか?」