「……で。いろいろあって今日一日佐古を避けちゃった、と。」
「はい……。」

――恒例の、隣のクラスでの懺悔(あるいは、愚痴)タイム。
部活の準備をしながら、理子が苦笑まじりにそう言った。私は項垂れる。
……朝のアレ以降、どうしても彼の顔が見られなくなって、つい避けてしまったのだ。
あれから何度か声をかけてもらったけど、さりげなく会話を打ち切ったり、その場を離れたりして。

「さりげなくって、絶対ウソでしょ。そうやってうまく振る舞いを調整したりごまかしたりするの苦手じゃん、ひな。」
「そ! そんなことないし……!」
「いーや、あるね。」

バッサリ断じられ、私はふたたび項垂れる。……うん、まあ、理子の言う通りかもしれないけど……。

「……ごめん、理子。同じクラスじゃないのにいつも話聞いてもらっちゃって。」

私は社交的な性格じゃないから多い頬じゃないけど、たしかに同じクラスにも友達はいる。
でも、直樹くんのことを相談できるのは理子だけだ。

「別にそれは全然いいよ。違うクラスだからこそ話せることもあるだろうし……何よりあたしたち、親友じゃん?」
「理子……!」

ありがたい。
感激して抱きつこうとすると「暑苦しい。」とサッと避けられてしまったけど、それでもありがたい。
……私って、つくづく親友にめぐまれてるなあ。私は引っ込み思案で内気なたちだから、ハキハキと思ったことを言ってくれる理子がいてくれて本当によかったと心底思う。

「まあでも、無理はないと思うよ。」

理子がよいしょ、とスポーツバッグを背負う。

「久保たちとかに脅された上に、気持ちが残ってる篠崎とも揉めて気まずい状態なんでしょ?そんな状態で佐古といちゃつけるような太い神経をひなは持ってないなんてこと、少し考えればわかるし。」
「それ褒めてる? 貶してる?」
「どっちでもない。」

肩を竦めた理子が立ち上がり、私を見る。

「でも、ずっとそのままじゃいられないのも確かだし。ちゃんと考えなよ。」
「……うん、わかってる。ありがと、理子。」

私が言うと、理子はン、と満足そうに頷いた。

「じゃああたしは今日部活だから。またね!」
「うん、部活がんばって!」

手を振って去っていく理子の後ろ姿を見送り、ふう、と息を吐いた。
……そうだよね、このままずっと悩んでるわけにもいかないよね。
直樹くんは待ってくれると言っていたけれど、蒼のことも引きずったままだと、前に進めないことも確かなのだ。

「帰ろ……。」

いろいろ考えなくちゃいけないことが多くて、頭がパンクしそう。