――翌日。
私は憂鬱な気持ちで登校し、重い足取りで教室の中に入った。近くのクラスメイトが、重苦しい空気をまとった私を、困惑したように、ちらりちらりと見てくる。その視線が痛くて、私は自然と下を向いてしまう。
（あーあ、なんであんなふうにぶちまけちゃったんだろ……。）
昨日、蒼に自分の気持ちをぶつけてしまった時のことを思い出し、自分の席で小さくうめいた。
あんなこと、本当は言うつもりなかったのに。
昨日は必死だったけど、時間を置いたらどんどん自己嫌悪におちいってしまった。……あんなの自分勝手で恥ずかしい、ただのヒステリーだ。
（茜くんにも心配かけちゃったし、おまけにあんまりよくない態度取っちゃったしなあ……。）
申し訳ないことをしたと思う。
――昨日の私は相当酷い顔色をしていたらしく、帰宅するなり茜くんは顔色を変えた。
茜くんはどうした、何があったんだ、って聞いてくれたのに、私は彼の蒼そっくりな顔を見て、何も答えることができなかったのだ。……胸が詰まって、泣きそうな気持ちになったから。
――いっそ茜くんが蒼だったらいいのに、なんて。
そんな、茜くんに対しても蒼に対しても失礼なことを考えてしまったりもした。しかも、茜くんには好きな人がいるのに。
（あーあ、蒼と直樹くんと久保さんと顔を合わせたくないなー……。）
顔を合わせたら気まずい人間が三人も。
たった数日の間で、トラブル（？）を起こした人間が多すぎる。うう、頭が痛くなってきた。
「具合悪い？ 大丈夫？」
「……あ、なお、きくん。」
「うん。」声をかけてきてくれた直樹くんが、嬉しそうに微笑んだ。「おはよう、ひなちゃん。」
「お、おはよう……。」
いつの間にか登校してきていたらしい彼に、なんとかそう返して、笑みを返す。……そしてさりげなく周囲に目をやって、久保さんたちの姿がまだ見えないことに安堵した。
……よかった。まだ来てなかった。
この期に及んでまだ直樹くん、ひなちゃん、なんて呼び合ってるのか――って、また反感を買ってしまうかもしれない。そうなれば今度こそ学校に居場所がなくなるかもしれない。
クラスの子たちは、今は私たちの互いの呼び方にそこまで違和感を覚えてないかもしれないが……もし彼に告白されたなんてことが知れたら、さすがに舌の根も乾かぬうちに、って思われてしまうだろう。
（でも今さら、直樹くんに『名前呼びやめない？』なんて言い出せないしな……。）
一回了承したことを、自分の都合でひっくり返すなんてそれこそ自分勝手だ。
うう、なんという負のスパイラル……。
「今日の一時間目ってなんだっけ？」
「数学だったと思うけど……。」
「あー、そうだ、小テストあったんだっけ、うわあめっちゃヤダなー。」
「そんなこと言って。直樹くん、頭いいんだから大丈夫だよ。」
実際、直樹くんは頭がいい。蒼もだけど、以前の定期試験では上位に入っていた。答案返しの時にこのあたりの席で話題になってたから耳に入ったけど、ほとんどの教科でいい点数だったはず。
性格もよくてかっこいいのに頭までいいなんて、もはやバグか何かだよね。
「そんなことないよ。カッコつけてただけだし。」
「え？」
聞き返すと、直樹くんははにかみながら言った。
「――だってさ、せっかく好きな子と近くの席なんだから、よく思われたいじゃん？」
「！」
思わぬ攻撃を食らって、一気に頬が赤くなる。ふ、不意打ちすぎる……！
「そ、そんな冗談……、」
「冗談じゃないよ。本気。」
「っ、」
真剣な声で続けられ、私は直樹くんの顔を見ていられなくて、俯いた。
……やばい。私は密かに戦慄した。
このままじゃ私、本当に流される……！
私は憂鬱な気持ちで登校し、重い足取りで教室の中に入った。近くのクラスメイトが、重苦しい空気をまとった私を、困惑したように、ちらりちらりと見てくる。その視線が痛くて、私は自然と下を向いてしまう。
（あーあ、なんであんなふうにぶちまけちゃったんだろ……。）
昨日、蒼に自分の気持ちをぶつけてしまった時のことを思い出し、自分の席で小さくうめいた。
あんなこと、本当は言うつもりなかったのに。
昨日は必死だったけど、時間を置いたらどんどん自己嫌悪におちいってしまった。……あんなの自分勝手で恥ずかしい、ただのヒステリーだ。
（茜くんにも心配かけちゃったし、おまけにあんまりよくない態度取っちゃったしなあ……。）
申し訳ないことをしたと思う。
――昨日の私は相当酷い顔色をしていたらしく、帰宅するなり茜くんは顔色を変えた。
茜くんはどうした、何があったんだ、って聞いてくれたのに、私は彼の蒼そっくりな顔を見て、何も答えることができなかったのだ。……胸が詰まって、泣きそうな気持ちになったから。
――いっそ茜くんが蒼だったらいいのに、なんて。
そんな、茜くんに対しても蒼に対しても失礼なことを考えてしまったりもした。しかも、茜くんには好きな人がいるのに。
（あーあ、蒼と直樹くんと久保さんと顔を合わせたくないなー……。）
顔を合わせたら気まずい人間が三人も。
たった数日の間で、トラブル（？）を起こした人間が多すぎる。うう、頭が痛くなってきた。
「具合悪い？ 大丈夫？」
「……あ、なお、きくん。」
「うん。」声をかけてきてくれた直樹くんが、嬉しそうに微笑んだ。「おはよう、ひなちゃん。」
「お、おはよう……。」
いつの間にか登校してきていたらしい彼に、なんとかそう返して、笑みを返す。……そしてさりげなく周囲に目をやって、久保さんたちの姿がまだ見えないことに安堵した。
……よかった。まだ来てなかった。
この期に及んでまだ直樹くん、ひなちゃん、なんて呼び合ってるのか――って、また反感を買ってしまうかもしれない。そうなれば今度こそ学校に居場所がなくなるかもしれない。
クラスの子たちは、今は私たちの互いの呼び方にそこまで違和感を覚えてないかもしれないが……もし彼に告白されたなんてことが知れたら、さすがに舌の根も乾かぬうちに、って思われてしまうだろう。
（でも今さら、直樹くんに『名前呼びやめない？』なんて言い出せないしな……。）
一回了承したことを、自分の都合でひっくり返すなんてそれこそ自分勝手だ。
うう、なんという負のスパイラル……。
「今日の一時間目ってなんだっけ？」
「数学だったと思うけど……。」
「あー、そうだ、小テストあったんだっけ、うわあめっちゃヤダなー。」
「そんなこと言って。直樹くん、頭いいんだから大丈夫だよ。」
実際、直樹くんは頭がいい。蒼もだけど、以前の定期試験では上位に入っていた。答案返しの時にこのあたりの席で話題になってたから耳に入ったけど、ほとんどの教科でいい点数だったはず。
性格もよくてかっこいいのに頭までいいなんて、もはやバグか何かだよね。
「そんなことないよ。カッコつけてただけだし。」
「え？」
聞き返すと、直樹くんははにかみながら言った。
「――だってさ、せっかく好きな子と近くの席なんだから、よく思われたいじゃん？」
「！」
思わぬ攻撃を食らって、一気に頬が赤くなる。ふ、不意打ちすぎる……！
「そ、そんな冗談……、」
「冗談じゃないよ。本気。」
「っ、」
真剣な声で続けられ、私は直樹くんの顔を見ていられなくて、俯いた。
……やばい。私は密かに戦慄した。
このままじゃ私、本当に流される……！
