諦められないことを、蒼のせいにして。
 こんなふうに勝手にキレて、自分の気持ちをぶつけて。
 ……本当に私、ダサい。
 なんて惨めで、なんてみっともないのだろう。涙がこみ上げてきそうになって、私は必死に目に力を入れる。

「ッオレは、別に迷惑なんて思ってない! ただ……っ、」
「だからいいよ、気を遣わないでも。わかってるよ。地味でぱっとしないくせに、幼なじみだってだけで、親しいつもりでいた私を鬱陶しく思ってたこと、もうちゃんとわかってるから。……だって迷惑に思ってなきゃ、『あんなこと』言ったりしないもんね。」
「……ッ!」

 私の言う『あんなこと』が何を指すのかわかったのか、蒼が青ざめて息を呑む。
 ……別に、そんな焦らなくたっていいじゃない。蒼はただ本心を言っただけなんだから。

「聞こえたんだよ、ちゃんと。」

 意図せず、自分の声に涙がからんだ。


――『……あったりまえだろ。幼なじみとか、昔の話だし。親しくもないやつからこんなんもらったって、気持ち悪いだけだろ』


あの時の絶望がよみがえって、胸が押しつぶされそうになる。
……でも、でもね蒼。
あんなことを言われても、まだ私は蒼のことが好きなんだ。

あの頃の優しい蒼はまだいるんだって、信じてるんだ――。

蒼が蒼白な顔のまま、「ちがう、」とかすれた声で言う。

「ひな、あれは……!」
「っもういい、聞きたくないっ!」

 蒼が昔のように、私を『ひな』と呼んだことにも気づかないで、私は耳をふさいだ。

……勝手に傷ついて、勝手に未練を抱いたままでいて、私はなんて自己中心的なんだろう。
でも、弱い私はもう、これ以上傷つきたくなかった。
私はこんな、醜い自分が大嫌いだ。

「ちょっと、何やってるの!」
「理子……。」

 割って入ってきたのは、遅れて私を追いかけてきたらしい理子だった。
 言い争っていたのは聞いていたのか、「もう、なんでもめてんの!」と怒ったような声で言って、こちらに駈け寄ってくる。

「ひな、大丈夫? 酷い顔色だけど。」
「大丈夫、ごめん理子。」
「……いいよ、気にしないで。ほら、もう行こ、ひな!」

 そう言い、理子がぐい、と私の手を引いて歩き出した。
 私は引っ張られるまま、理子についていく。……が、途中で理子は立ち止まって、振り返った。
 その視線の先にいるのは、蒼。

「……さいってー。」

 冷たく吐き捨てられた言葉に、蒼が目を見開き、硬直したのがわかった。理子はそんな蒼を見てふん、と顔をそむけると、再び歩き出す。
 ……私が何かフォローしなければいけなかったのに、言葉は喉に引っかかってうまく出てこなかった。

(蒼、ごめん。)

 私は理子に引きずられるようにして歩きながら、心の中で謝る。

(諦められなくて、ごめんね。)
 
――呆然と立ち尽くしたままの蒼は、私たちを追いかけてくることも、何かを言うこともなかった。