「えっ?」

 予想外の質問に、思わず目を瞬かせる。
 どうしてそんなことを聞くんだろう、ただの好奇心かな――そう思いながら改めて佐古くんを見れば、彼は頬を赤くしながらも、どこか緊張したような、真剣な目をしてこちらを見ていた。

 ただの好奇心じゃない。
 ふとそう直感して、私は自分の鼓動が速くなっていくことに気付いた。
 手を握られて、まっすぐ見つめられた時のことを思い出す。あの時感じたドキドキが、戻ってくる。


『オレたちと同じクラスの佐古とそいつ、いい雰囲気なんだよ。もしこれから佐古と宮野が付き合うんなら、そういうの不誠実だろ⁉』


 ――私と佐古くんが、いい雰囲気? 

「宮野さん?」  

不意に、ショッピングモールでの蒼の言葉を思い出し、かあっ、と頬が熱くなる。
まさか、佐古くんは――。

「つ、付き合ってないよ! ただの幼なじみ!」

 佐古くんの顔を正面から見れなくて、私はバッ、と下を向いた。
 なんとか絞り出した声は、動揺が滲み出ていて、間が抜けている。

「茜くん――写真の男の人は蒼の従兄で、わけあってうちの部屋を貸してるの。この写真は、私がその……蒼にふられて落ち込んでたから、気分転換に買い物に連れて行ってくれたときのもので……。」
「……それって、今、同居してるってこと? 血のつながりもない男が、女子高生の家に?」

 私の説明を受けて、佐古君が怪訝そうな顔をする。
 確かに、これだけ言うと、そういう反応になってしまうかもしれない。

「そうだけど……でも、勝手知ったる幼なじみだから。うちのお母さんも了承してるし、そもそも彼には好きな人もいるし、危ないとか、そういうことはないよ?」
「ふうん……。」

 少しだけ不機嫌そうに、佐古くんが目を細める。

「……でもさ、付き合ってはないんだよね? その人と。」
「う、うん。ただの幼なじみだよ。」
「……そっか。」

 私がきっぱりとそう言うと、呟き、佐古くんがほっとしたように微笑む。
 思わずどきりとしてしまう――どうしてそんな、ほっとしたみたいに笑うの?

「あのさ、宮野さん。」
「……なに?」
「今日の放課後って、空いてる? 少しだけでいいから、二人で話す時間がほしくて。」
「!」

 息を呑む。頬が、急激に熱くなる。
 これって、まさか……いや、でも、ただの私の自意識過剰かもしれないし。

「わ、わかった。今日の放課後、大丈夫だよ。」

 ――そうやって、動揺もあらわな声で返事をすると。
 佐古くんはまた、ほっとしたように笑って、「ありがとう。」と言った。