クラスの居心地は、あまりいいとは言えなかった。
 私と蒼のことを知らない子もいるんだろうけど、一部の男子はニヤニヤしながら視線を寄越してくるし、蒼と仲のいい女子たちからは厳しい視線を向けられる。

 ……蒼もたぶん、土曜日のことが、ちょっとした騒ぎになってることは知ってるだろう。
 しかし、他の人たちが直接何かを聞いてこないように、蒼も、当然のように何も言ってこない。――別に興味がないのかもしれない。

 そりゃあ、そうだろう。
 蒼は私のことを振っただけで、茜くんと私のことにはなんの関係もないんだから。

「はあ……。」

 ――ようやく午前の授業が終わったところで、私はため息をついた。
 あーあ、理子が同じクラスだったらなあ。こんな空気では、気軽におしゃべりできる相手がいないじゃないか。
そりゃあこのクラスにだって友達はいるけど、恋愛相談ができるほど仲がいい子はいないし。
 せめて茜くんとは付き合ってないです! ということを、「蒼に告白したばっかのくせにこいつなんなん?」と思っている人たちに伝えられたらいいんだけど、説明して回るような度胸もないし。

「大丈夫?」
「わっ。……さ、佐古くん!」

 ふたたびため息をつこうとしたとき、声を掛けられる。
 驚いて顔を上げれば、ななめ前の席から、佐古くんがこちらを見ていた。

「ごめん、驚かせたかな。なんか授業中元気なさそうだったからさ。」
「いや、そんな……。私こそこれ見よがしにため息なんてついて恥ずかしい……。」
「……もしかして、今出回ってる写真について悩んでる?」

 目を丸くする。
 声をひそめてそう尋ねた佐古くんは、私の反応を見て、「やっぱりそうだよな。」と眉を八の字にした。

「佐古くんも知ってるんだ……。」

 なんだか居たたまれない。
 別に悪いことをしてたわけじゃないけど……佐古くんは、私が蒼のことを好きだって知ってるから。

「うん。……たぶん僕らのグループにいるやつが撮って、流したんだと思う。悪気とか、悪意があるわけじゃないだろうけど、面白半分で……。ごめん、流す前に止められたらよかったんだけど、気づかなくて。僕からちゃんと言っとくから。」
「あ、うん、ありがとう。でも謝らないで、佐古くんが気にすることじゃないよ。」
「それはそうかもしれないけど、まあ、でもやっぱ友達がやったことだからさ。」

 苦い顔で頭をかいた佐古くんが、「あ、あと、」と続ける。
 視線をさまよわせている佐古くんは、なんだか何かに迷っている様子だった。目元は少しだけ赤く染まっている。

「……あのさ。写真の人とは、付き合ってるの?」