「!」
その時。不意に下の階から、玄関の扉を開ける音と、茜くんの声が聞こえてきた。
どうやら、買い物から帰ってきたらしい。
私は一気に青ざめる。
やばい。このままでは勝手に部屋に入ったことがばれてしまう。
「お、おかえりなさい!」
半ば転がるようにして茜くんの部屋から飛び出し、慌ててそう応える。
階下からは「いろいろ買ってきたぞー!」との返答があった。
……ふう、よかった。怪しまれてはいないみたいだ。
私はホッと息を吐き出すと、階段を下りていく。玄関で靴を脱いでいる茜くんの足下には、食材の入ったビニール袋が二つ。
何事もなかったような顔をして、私は笑顔を作った。うまく笑えているだろうか。
「買い物、ありがとう。あ、レシートは後で渡してね、写真撮ってお母さんに送るから。」
「別にいいって、大した値段じゃないから。家に置いてもらってる訳だし……。」
「気にしなくていいって、お母さんなら言うと思うけどなあ……。」
娘の私が言うのもなんだが、お母さんはとても懐が深くて、加えてパワフルな人だ。家を使っていいと言った以上、未成年にお金を払わせるなんてナンセンス! って言うだろう。
「今日、夜ごはんどうしようか?」
「オムライス食いたくて材料買ってきちゃった。」
「いいね、あ、デミソースの素!」
「お。ひなはケチャップ派? オレは、オムライスはデミグラスソースで食べたい派。」
「私も! デミグラスの方が好き。」
どっちもおいしいけどね、なんて二人で笑い合う。
ビニール袋を手に、上機嫌に、キッチンに向かう茜くんの背中を見送りながら――私は一人、軽く唇を噛んだ。
――どうして茜くんは家出をしてきたのか。本当に、死んでしまった好きな子の、その死の謎を暴くためにここにいるんだろうか。もしそうなら、茜くんはこのまま……何もしないままこうやって、普通に生活していてもいいのかな?
「……。」
だが、さすがに聞けない――茜くんは、好きだった女の子を殺した人を見つけるために家出をしてきたの、なんて。
そもそも、ノートを勝手に見たってことを言えないんだから、聞けるはずがない。
「? どうした、ひな。」
「……ううん! なんでもないよ。ほらオムライス、一緒に作ろ。ご飯炊いてあるから!」
こちらを振り返る茜くんに、意識して、作った笑顔を向ける。
……茜くんの本心が、知りたいな。
そう思っても、無理なものは無理なんだろう。勝手にノートを盗み見たなどと言えるはずもないし、そもそも好奇心で無神経に尋ねていいような話題でもないだろうから。
私はモヤモヤした気持ちを無理やりおさえつけると、そのまま逃げるようにキッチンへと走っていった。
その時。不意に下の階から、玄関の扉を開ける音と、茜くんの声が聞こえてきた。
どうやら、買い物から帰ってきたらしい。
私は一気に青ざめる。
やばい。このままでは勝手に部屋に入ったことがばれてしまう。
「お、おかえりなさい!」
半ば転がるようにして茜くんの部屋から飛び出し、慌ててそう応える。
階下からは「いろいろ買ってきたぞー!」との返答があった。
……ふう、よかった。怪しまれてはいないみたいだ。
私はホッと息を吐き出すと、階段を下りていく。玄関で靴を脱いでいる茜くんの足下には、食材の入ったビニール袋が二つ。
何事もなかったような顔をして、私は笑顔を作った。うまく笑えているだろうか。
「買い物、ありがとう。あ、レシートは後で渡してね、写真撮ってお母さんに送るから。」
「別にいいって、大した値段じゃないから。家に置いてもらってる訳だし……。」
「気にしなくていいって、お母さんなら言うと思うけどなあ……。」
娘の私が言うのもなんだが、お母さんはとても懐が深くて、加えてパワフルな人だ。家を使っていいと言った以上、未成年にお金を払わせるなんてナンセンス! って言うだろう。
「今日、夜ごはんどうしようか?」
「オムライス食いたくて材料買ってきちゃった。」
「いいね、あ、デミソースの素!」
「お。ひなはケチャップ派? オレは、オムライスはデミグラスソースで食べたい派。」
「私も! デミグラスの方が好き。」
どっちもおいしいけどね、なんて二人で笑い合う。
ビニール袋を手に、上機嫌に、キッチンに向かう茜くんの背中を見送りながら――私は一人、軽く唇を噛んだ。
――どうして茜くんは家出をしてきたのか。本当に、死んでしまった好きな子の、その死の謎を暴くためにここにいるんだろうか。もしそうなら、茜くんはこのまま……何もしないままこうやって、普通に生活していてもいいのかな?
「……。」
だが、さすがに聞けない――茜くんは、好きだった女の子を殺した人を見つけるために家出をしてきたの、なんて。
そもそも、ノートを勝手に見たってことを言えないんだから、聞けるはずがない。
「? どうした、ひな。」
「……ううん! なんでもないよ。ほらオムライス、一緒に作ろ。ご飯炊いてあるから!」
こちらを振り返る茜くんに、意識して、作った笑顔を向ける。
……茜くんの本心が、知りたいな。
そう思っても、無理なものは無理なんだろう。勝手にノートを盗み見たなどと言えるはずもないし、そもそも好奇心で無神経に尋ねていいような話題でもないだろうから。
私はモヤモヤした気持ちを無理やりおさえつけると、そのまま逃げるようにキッチンへと走っていった。