茜くんが書いたのであろうその分析からは、彼と、事故で死んだという女子高生が親密な関係にあったことが窺えた。
『あいつ』とか『やつ』とか、ぶっきらぼうな筆致に反して、茜くんが、その子の死の真相を調べるのに必死になっていることがよくわかる。

 メモをさらに読み進めていくと、こうあった。


『やっぱり、殺されたんだ。他殺だ』

『あいつが落ちた現場を見に来て、あげく真っ青になって、逃げるように走り去っていった女がいたという目撃証言が多くあった。決まりだ。事故でも自殺でもない』

『走り去っていったやつ――誰? 証言者たちからは、これといった特徴なしとのこと。ずいぶん若かったそうだ。もしかして、学生なのか?』

『あいつはきっと、そいつに殺された。必ず犯人を見つけ出してやる!』


「茜くん……。」

 殺された。犯人。――物騒な言葉の羅列と、強い語気。私は少し怖くなって、ごくりと唾を飲み下した。
 ……メモからは、茜くんの怒りと、悲しみがダイレクトに伝わってくるかのようだった。

 彼はこの、死んだ女の子と、友達だったのかな。仲が良かったのだろうか。
 茜くんは今まで、彼女がいたことないと言っていた。それは、ずっと好きな人がいて、彼女が忘れられないからだ、と。……なら、もしかして。

「この、死んだ女の子が、茜くんの好きな人……?」

 つぶやきながらメモを指でなぞっていき、はっとする。
 必ず犯人を見つけ出す――そう書かれたところの、紙の表面がほんの少しごわついている。
 そのごわつきは、紙が一度濡れて、乾いた証拠だった。

「泣きながら書いたんだ……。」

 私は半ば呆然としながら呟いた。

 涙をこぼしながら、シャーペンをぎゅっと握りしめて、書き殴った。
 殺されたかもしれないというその子の、死の真相を見つけることを誓いながら。

「あ……これがあった日付、一週間後だ。」

 発行年月日はわからなかったが、彼女の遺体が発見された日はわかった。だいたい一週間後。当時が何曜日だったのかはわからないが、今年は月曜日だ。
 ……もしかして茜くんがここに来たのは、この日と合わせるためなのだろうか?
 さらに、彼女が死んだという歩道橋はこの町にあった。……ということは、ここを家出先に選んだのも、彼女の命日を意識していたということで間違いないだろう。
 いやでも、ただ現場で彼女を悼みたいというだけなら、わざわざ家出までして、この家に居候する理由がない。

「まさか……茜くん、真犯人を見つけるために?」

 わざわざ家出をしてまで、ここに調べに来たの?
 茜くんが十六歳で、その子が彼と同い年だったのなら、事故(事件)が起きたのは、推定三年前だ。それなりに時間が経っている。
けれども、ようやく何か新しい手がかりが見つかって、それで真犯人を見つけ出すべく、茜くんはこの町まで足をのばした――。

私は黙って、ノートを閉じた。そして、もとの場所に戻す。
この推測がもしも、事実なら。

ただの妄想でないのなら。
――茜くんは、私なんかよりずっとずっと、辛い恋をしているといことになる。

亡くなった大切な女の子のために、今も身を削って――。


「ただいま~。」