そこには、切り抜かれた新聞記事が貼り付けられていた。
 恐らくだが――これは地方新聞の記事だ。
 きっと、三面の真ん中あたりにある小さな記事だったのだろう。真ん中の記事なので、欄外にある発行日は見られないから、何年の何日に発行されたのかもわからない。

 ――このノート、スクラップブックだったのかな。
 私は首をひねりながらも、ノートを矯めつ眇めつする。
 ……いや、それにしては、他のページに新聞記事らしきものはない。

「しかも、これ……。」


『女子高生(16) 歩道橋の階段から転落死』


 小さな、白抜きの見出しには、そうあった。
 記事の内容は簡単だ。市内の女子高生が、歩道橋の階段から落ちてなくなったこと。
 事故の可能性が高いが、階段の途中ではなく橋の上から落下したにもかかわらず、背中から着地したことから、他殺の可能性もあるということ。
 警察は事故・自殺・他殺の観点から捜査を続けるということ――。

「どうして茜くんは、こんな記事を大事に持って……。」

 わざわざ、小さな記事を切り抜いて貼り付けて。
 ……何か意味があるから、こんなことをしてるんだろうけれども。
 大事にしていなかったら、彼にとって大きな意味を持っていなかったら、家出にまでこのノートを持ってきたりしない。
 そこまで考えて、もう一度記事を読み直す。そして、ハッとした。
 小さな記事の、ぼんやりとした小さな写真。――そこに移っている歩道橋に、見覚えがあった。

「ここ、この町だ……!」

 この事件は、この町で起きたことだったんだ。
 私もこの写真の歩道橋、使ったことがある。学校から少し歩いたところにある、大きな国道にかかっている歩道橋だ。
 女子高生がそこで亡くなっているなんて知らなかったけれども、記事自体も、そんなに新しいものじゃない。事件当時私がまだ子どもだったなら、知らなくたっておかしくないだろう。
 そんなことを考えながら、また、ぺらりとページをめくって、

「……あ!」

 息を呑んだ。
 そこにあったの、小さい文字で書き殴られたメモ。


『事故――ありうる。が、険しくもない歩道橋の階段で足を滑らせることが果たしてあるだろうか? 前日は晴れていた。地面は濡れておらず、滑りやすくもなかったはず。なら、慌てて階段を上っていて足を滑らせた? だとしても、足を滑らせるほど慌てていたのはなぜ?』

『自殺――除外。有り得ない。たとえ自殺しようとしていたにしても、歩道橋の階段から背面ダイブなんて方法を選ぶとは思えない。痛いのも怖いのも嫌いな臆病なやつだったし、なにより、人に迷惑をかけるのが嫌いだった』

『他殺――有り得る。事故に見せかけて(たとえば、肩を強くぶつけたりして)殺すこともできる。ただ、あいつは誰かに恨まれるようなやつではなかった。少なくとも、殺してやりたいと思われるような、そんな性格じゃなかった。だとしたら、誰に殺されなければならなかった? あるいは、通り魔?』