「――は?」
にこっと、いい笑顔でそう言った茜くん。
蒼が目をまんまるに見開く。当然私も目をまんまるにしている。
突然のことに、咄嗟に言葉が出てこず、ぱくぱくと口を開閉させた。
「――い、いやいやいや茜くん⁉ 何言ってるの⁉」
「こら動揺しない! 見返してやろうって決めただろ!」
私が素っ頓狂な声を上げると、すぐさま腕を引かれてそう耳打ちされる。
あ、そうだった。今日、おめかししてデートしたのも、可愛くなって蒼を見返してやるって、そういう目的だった。すっかり忘れていた。
……い、いやでも! 本当にデート(?)先で蒼に会うなんて思ってなかったし!
「口説く……? 何、茜ってロリコンなの?」
「年の差二つでロリコン呼ばわりは遺憾なんだけど? 別にひなが嫌なら今すぐ付き合おうってわけじゃないし、なんの問題もないだろ。」
「同じ年の女子でいいだろ。なんでわざわざ宮野を……。」
「ひな『が』いいんだよ。……というか、蒼に文句言う資格なんてないだろ? お前、ただの幼なじみなんだから。」
ただの幼なじみ、に力を入れた言い方に、蒼がぐっと言葉に詰まったような顔になった。
……蒼をやり込めるためなんだろうけど、茜くんそれ、地味に私の心もえぐってるからね……!
「っ、佐古が……、」
「は? 何?」
「オレたちと同じクラスの佐古とそいつ、いい雰囲気なんだよ。もしこれから佐古と宮野が付き合うんなら、そういうの不誠実だろ⁉ だから、」
「……っ!」
鋭く、息を呑む。
――そんな。いい雰囲気なんて、そんなことないのに。たしかに、佐古くんには手をにぎられたけど、私たちはそんなんじゃない。佐古くんだって私を慰めてくれただけだ。
……それに、私、つい昨日、蒼に告白したばっかりなんだよ? その告白の手紙を回し読みなんかしてたの、蒼じゃない。
私は悲しくて、悔しくて、ぐっ、とこぶしを強く握りこんだ。
――それなのに翌日、私が佐古くんと付き合うなんて話が出るわけない。そんなにすぐに、気持ちが変わるなんてありえない。
私はまだ、蒼が好きなのに。蒼だってきっとそのことをわかってるはずなのに。
そんな言い方って……。
「――は? ふざけてるのか、蒼。」
すると。
茜くんが不意に、凍てつくような声で、吐き捨てた。
「な、なんだよ、オレはふざけてなんて……!」
「他人の名前出さないと、自分の気持ちすらまともに話せないのかよお前。どれだけ情けないんだ?」
声だけでなく、冷え切っているのは彼の視線も同様だった。怒ったような、蔑むような、そんな視線で、彼は蒼をにらみつけている。
ただ、蒼はその視線の冷たさにひるむ、というよりはぎくりとしたようだった。
そう。何か、図星をつかれてしまった、というような――。
「――いいか、蒼。お前のやってることは、ひなを傷つけてるだけだ。……お前は、自分はひとのために我慢してるんだって思ってるのかもしれないけど、それでひなを傷つけてたら、ヒトの為も何もねーだろ。」
「あ、茜お前、なんで……何を知って……。」
「そんなこともわからないで、何も言えずに逃げて……そんなやつにアレコレ言われる筋合いはねーんだよ。」
行くぞ、ひな。こんなガキに構ってる時間そのものが無駄だ。
――そう言って、茜くんが私の手をつかむ。そしてそのまま歩き出した。
引っ張られるように、私も茜くんの後に続く。
「あ、茜くん……。」
名前を呼んでみても、返事はない。
ずんずん歩く彼は、やっぱり怒ったような目で前を見ていて――でも。
その目にあるのは、なぜか怒りよりも、悲しみやもどかしさといったような感情の割合の頬が、大きいような気がした。
にこっと、いい笑顔でそう言った茜くん。
蒼が目をまんまるに見開く。当然私も目をまんまるにしている。
突然のことに、咄嗟に言葉が出てこず、ぱくぱくと口を開閉させた。
「――い、いやいやいや茜くん⁉ 何言ってるの⁉」
「こら動揺しない! 見返してやろうって決めただろ!」
私が素っ頓狂な声を上げると、すぐさま腕を引かれてそう耳打ちされる。
あ、そうだった。今日、おめかししてデートしたのも、可愛くなって蒼を見返してやるって、そういう目的だった。すっかり忘れていた。
……い、いやでも! 本当にデート(?)先で蒼に会うなんて思ってなかったし!
「口説く……? 何、茜ってロリコンなの?」
「年の差二つでロリコン呼ばわりは遺憾なんだけど? 別にひなが嫌なら今すぐ付き合おうってわけじゃないし、なんの問題もないだろ。」
「同じ年の女子でいいだろ。なんでわざわざ宮野を……。」
「ひな『が』いいんだよ。……というか、蒼に文句言う資格なんてないだろ? お前、ただの幼なじみなんだから。」
ただの幼なじみ、に力を入れた言い方に、蒼がぐっと言葉に詰まったような顔になった。
……蒼をやり込めるためなんだろうけど、茜くんそれ、地味に私の心もえぐってるからね……!
「っ、佐古が……、」
「は? 何?」
「オレたちと同じクラスの佐古とそいつ、いい雰囲気なんだよ。もしこれから佐古と宮野が付き合うんなら、そういうの不誠実だろ⁉ だから、」
「……っ!」
鋭く、息を呑む。
――そんな。いい雰囲気なんて、そんなことないのに。たしかに、佐古くんには手をにぎられたけど、私たちはそんなんじゃない。佐古くんだって私を慰めてくれただけだ。
……それに、私、つい昨日、蒼に告白したばっかりなんだよ? その告白の手紙を回し読みなんかしてたの、蒼じゃない。
私は悲しくて、悔しくて、ぐっ、とこぶしを強く握りこんだ。
――それなのに翌日、私が佐古くんと付き合うなんて話が出るわけない。そんなにすぐに、気持ちが変わるなんてありえない。
私はまだ、蒼が好きなのに。蒼だってきっとそのことをわかってるはずなのに。
そんな言い方って……。
「――は? ふざけてるのか、蒼。」
すると。
茜くんが不意に、凍てつくような声で、吐き捨てた。
「な、なんだよ、オレはふざけてなんて……!」
「他人の名前出さないと、自分の気持ちすらまともに話せないのかよお前。どれだけ情けないんだ?」
声だけでなく、冷え切っているのは彼の視線も同様だった。怒ったような、蔑むような、そんな視線で、彼は蒼をにらみつけている。
ただ、蒼はその視線の冷たさにひるむ、というよりはぎくりとしたようだった。
そう。何か、図星をつかれてしまった、というような――。
「――いいか、蒼。お前のやってることは、ひなを傷つけてるだけだ。……お前は、自分はひとのために我慢してるんだって思ってるのかもしれないけど、それでひなを傷つけてたら、ヒトの為も何もねーだろ。」
「あ、茜お前、なんで……何を知って……。」
「そんなこともわからないで、何も言えずに逃げて……そんなやつにアレコレ言われる筋合いはねーんだよ。」
行くぞ、ひな。こんなガキに構ってる時間そのものが無駄だ。
――そう言って、茜くんが私の手をつかむ。そしてそのまま歩き出した。
引っ張られるように、私も茜くんの後に続く。
「あ、茜くん……。」
名前を呼んでみても、返事はない。
ずんずん歩く彼は、やっぱり怒ったような目で前を見ていて――でも。
その目にあるのは、なぜか怒りよりも、悲しみやもどかしさといったような感情の割合の頬が、大きいような気がした。