駅前のショッピングモール。
早速出かけて、茜くんがと一緒にこの服似合うんじゃないとか、これ美味しそうだとか言いながら、買い物やら買い食いやらを楽しんでいたら、いつの間にか夕方になっていた。駅前のショッピングモールにはブティックもカフェも多くある。ゲームセンターや本屋まであるので、退屈することはないだろうとは思っていたけど、大変楽しい時間だった。

「いろいろ買ったな~。」
「うん。あの、よかったの? こんなに洋服とか、アクセサリーとかもらっちゃって……。」

私は茜くんが持ってくれている紙袋を見やる。
それらは、茜くんが買ってくれた服などが入っている袋だった。茜くん、いろいろ奢ってくれた上に、荷物持ちまでしてくれている。

「別にいーよ。バイトしてるけど趣味も特にないから使い道とかあんまりなかったしさ。居候のお礼だと思ってよ。」
「でも……。」
「俺が買ってあげたいって思っただけだし。それでも気になるなら、ひなのお母さんへの賄賂だとでも思っといて。」

ね?
そう言って、茜くんが微笑む。
……すごいなあ。スマートでかっこいい。
何より、私に気を遣わせないように振る舞ってくれているのがわかる。
……けど、なんだかここまでしてもらうと申し訳なくなってしまう。
というか、茜くん、私に甘すぎないか。恥ずかしいうえに居たたまれない。

「ねえ茜くん、私ね……。」

「――茜?」

 私が、となりに立つ茜くんに声を掛けようとした、その時だった。
 驚いたような声が、私の言葉を遮った。

 ……嘘。こんなところで、偶然会うなんて。

「あ、蒼……。」
「ひ……宮野。今、茜って言ってたよな。そいつ、篠崎茜なのか? お前らがどうして一緒にいるんだよ。」

 ビニール袋を持った蒼は驚いた表情で、茜くんに視線を注いでいる。そりゃあそうだろう。ずっと会っていない従兄が、親戚の自分でなく、ただ親戚の近所に住んでた幼なじみと休日一緒にいたら、戸惑うに決まっている。蒼は茜くんに懐いていたから、蔑ろにされたように思うかも。

「あの、蒼。これは……。」

 わた私ながら、ちらっと茜くんを見れば、こっちはほとんど表情を変えていない。冷たい、とすら思えるような無表情で、蒼を見据えている。
 ――いや、茜くんは少しは焦って⁉ 
 蒼を通してもしも家出先をバラされちゃったら、連れ戻されちゃうよ……⁉

「おい、せめて『茜くん』だろ、クソガキ。何、当然のように呼び捨ててるわけ?」
「ちょ、ちょっと茜くん⁉」

 いきなり喧嘩腰な茜くんに目を剥く。なんでそんなケンカを売るような……、いや、たしかに蒼の態度はよくなかったけど。『そいつ』とか言ってたし。
 案の定、蒼の眉は不機嫌そうにしかめられた。

「久々に会ったってのにずいぶん上からモノ言うじゃん。親戚同士なのに、呼び方くらいでうるさいな。……というか、なんで茜が宮野と一緒にいるんだよ。」
「『宮野』ねえ……。」

 茜くんがふん、と鼻で息をつく。
――なに無意味な気使ってんだよ、バッカじゃねえの。
 唇が動き、ほんの小さな声でそう吐き捨てる。蒼は聞き取れなかったのか、「なんだよ。今、なんて言ったんだよ?」と片眉を上げた。

「なんでもいいだろ。……で、どうしてオレらが一緒にいるのか、って? そんなの簡単だよ。最近たまたま再会したから、一緒に買い物に出かけることにしたんだよ。……ああ、でも、それだけってわけじゃないけど。」
「は?」

「オレ、今、ひなのこと口説いてるから。」