『リザベット様は、本当に絵本が大好きですね』


 魔法使い様と紡いだ思い出に触れていたせいかもしれない。

 私は夢の中で、もう1度魔法使い様と再会をしていた。


『絵がいっぱいで、すっごくきれいなんですよ!』


 小さい頃の私は、魔法使い様が持ってきてくれた数冊の本の中から絵本を選び出していた。


『僕が読みましょうか?』

『はい!』


 こんな、こんな穏やかな時間もあったことを思い出す。

 完全に忘れていたわけじゃないけれど、魔法使い様と過ごした時間が心休まるものだったことに夢を通して気づかされた。


『どれがいいですか?』

『うんとねー、うんとねー……』


 今更、魔法使い様にありがとうって伝えたいのかな。

 あの日、あのとき、私は魔法使い様のために何もできなかったのに。


『ぜんぶっ! ぜんぶよんでください!』


 お兄様の伝手で、辺境の地にある魔法図書館で働く可能性を得た。

 それって、もしかすると、心地のよかった《《あの日々》》に戻る準備を本たちが整えてくれたのかもしれないと思い込んだ。

 私は、魔法使い様と再会すべき人間になることができたのだと言い聞かせた。


「…………」

「起きた?」


 すべては憶測。そして妄想。

 だって、私が話しかけたところで、言葉を返してくれるはずの人たちはもういない。

 私は、愛溢れる世界から旅立つことを決めたのだから。


「……はい」


 現実に戻ってくると、私は腰が痛くなりそうな居心地の悪いソファの上で目を覚ました。


「無事に目覚めてくれて良かったよ」


 あまりに寝心地が良く感じていたために、自分が暮らしてきた城のベッドに出戻りさせられたのかと勘違いした。

 それだけの心地よさを感じていたはずなのに、私が眠りから目覚めた場所はベッドの上ではなくボロボロのソファ。