直後、私の視界は白に染まる。穏やかな風が流れて、キスの感触をなぞるように、何かが片頬を掠めた。
「これ、私が……」
指先で拾い上げて、自分の掌に落ちてきた花びらを思い出す。
—— “花びら、欲しかったんだろ”
瑞來は覚えていないかもしれないけれど、そう言って差し出してくれた掌が、私は大好きだったよ。
高校でクラスが離れても、同じ委員になれたときは嬉しかった。もしかしたら、瑞來はまた図書委員を選ぶかもって、実は少し思っていたから。
当番は、大変だったよね。部活と両立して大変なのに、もう行かなきゃって出ていくくせに、力仕事は先に全部片付けてくれて、不器用で優しい瑞來のこと、もっと好きになってたんだよ。
バレンタインの約束、守れなくてごめんね。あれだけ夢を語ってたくせに諦めるのかって、失望したよね。それなのに市販のチョコレートも「美味しいよ」って食べてくれて、「でもケーキのがいいかも」って言ってくれた瑞來に、本当は打ち明けたかった。
私が書いた手紙は、もう捨てちゃった?喧嘩したら仲直りして、その後はどこか出掛けようねって認めた約束も、思えばちゃんと守れなかったけど、素直に行きたいって言えば良かった。
写真をアップして安心を得るよりもっと、瑞來に触れたかった。瑞來の綺麗な横顔を見ていたかった。
挙げればキリがないほど、今さらになって沢山浮かぶの。あのときは気付けなかったことが沢山、浮かんでくるの——。
「……お願いします」
私は頬を伝う涙を拭って、花びらに最後の願いを唱える。
目蓋を持ち上げると、そこには封を切った手紙と緒未が、私を覗き込んでいた。