やはり14日の『#卒業日カレンダー』は『#卒業日報告』で埋まっていた。
1番多いのは告白報告だ。恋の切なさを歌ったBGMに合わせて、カレンダーの日付欄には丸やハートがつき、コメント欄には詳細が綴られていた。
『勇気出しました。返事はOKで、片思いからも卒業しました!』
『卒業日カレンダーのおかげで頑張れた!俺も好きって言われた;;』
そんな幸せな報告が溢れていたが『勇気出したけど振られちゃいました;でも、勇気を出した自分のことを好きになれた。背中を押してくれた人ありがとう!』『ダメ元ってわかってたけどダメでした。もうすぐ卒業だから心残りはない!弱気な自分からは卒業できた!』という失恋報告もあった。
成功する、とわかっている人だけが勇気を出したわけじゃない。
1月に流行っていた小さな目標と違って、相手がいる目標だ。自分の努力だけでは実らない。
なのに、どうしてみんな1歩踏み出せて。そしてダメだった自分をさらけ出すことができるんだろう。
・・
「みんな告白してるよ?」
翌日、美月はまたしても目で訴えかけてくる。「まさか爽汰にあげたチョコってあの日のだけ?」
「うん。昨日も今日も滑り止めの入試に行ってるから」
「げー!ラッピングもしてないし、なんなら味見でしょあれ」
「ダメだったかな」
「幼馴染としてはいいよ、でも好きな相手にはダメ」
私はひた隠しにしているし、それ以外のことは割とうまく隠せてきたはずなのに、爽汰への気持ちだけは周りから見るとダダ漏れらしい。否定することもできず曖昧に頷く。
「ほら見て。今回告白できなかった人たちもこれから告白するってさ」
美月がスマホを開いて『#卒業日カレンダー』を見せる。目に飛び込むのは3月のカレンダー達だ。
『バレンタインに卒業した人たちに勇気をもらいました!』
『最後のチャンスです、頑張ってみます』
『バレンタインにもらえなかったけど、ホワイトデーは自分から勝負!』
とまたもや告白予告がずらっと並んでいる。恋の勇気は伝染するらしい。それはとてもいいことだけど……。
「あ、じゃあ。この日は?」
3月30日を指さす、私の18歳の誕生日だ。
「18歳になる時に、告白できないさくらから卒業っていうのは?」
「うーん、考えておく」
「その日は私がかわいくしてあげるからさ。あ、今日も触ってもいい?」
「いいよ」
美月は私の後ろに立つと髪の毛を掬った。時々美月はこうして私の髪をアレンジする。そんな時は決まって嬉しそうだ。
私たちの学校は進学校で、その中で美月は学年首位を取ったことだってある。でも先生やご両親の反対を押し切って、美容学校に進むのだと言う。
ずっと人を可愛くするのが好きで、どうしても夢を諦められなかったと笑っていた。
強い。でもそんな美月にも悩む夜があることを知った。強いだけじゃないはずなんだ。
私は悩むことからも逃げているから、弱い。いい子を作っていれば何も考えなくて済むから。いい子に逃げている。