「1・2・3・4」

 この感覚を、味わいたかった。
曲が始まる前の緊張感と、早くなる鼓動に反して刻む脳内メトロノーム。
集められる視線と、それぞれが交わすアイコンタクト。拍を保つため小刻みに上下する爪先。

 ドラムという全員の逞しい背中を感じる特等席。観客とメンバー、全ての熱気を受ける場所。
詩のギターと歌声、結弦のベース、琴葉のキーボード。
揺れる肩と、動く足。観客を煽る手拍子と、曲を彩る動作。
 世界中の著名バンドのどこよりも、僕は無名な僕達が好きだ、この四人で響かせる音が好きだ。

 全てを奪われたあの夏は、それ以上の何かを掴むための伏線だったのかもしれない。
『神様は意地悪だ』という言葉をよく耳にするけれど、きっと神様は意地悪ではない。
僕が作詞をする時のような、臭いシナリオを好んでしまうのだろう。絶望から計り知れない希望を用意するあたり、僕と同じ思考を感じる。
 ここまでの快晴ということは、神様もご満悦だろう。
これからの人生、それぞれの道を進んだ先で何度も再会がありますように。
飽きるくらいの臭いシナリオが、用意されていますように。