「まず、ひとつ目。俺が引っ越すのは事実だけど、転校まではしない」
「え?!」

 そんなバカな。途端に頭が混乱してくる。
 文化祭が終わったら会えなくなるかもしれない、今日が最後のチャンスだと考えたから一大決心をしたのに。

「春には卒業だし、遠くなるけど新しい家から通えない距離じゃないから」
「でも日鞠が転校しちゃうって言ってて……」
「たぶん門脇が話を盛ったな」

 思わず小首をかしげた。たしかにこの時期に転校なんておかしいと最初に思ったけれど。
 でも、どういう意図があって日鞠が私に偽情報を伝えたのか、それがわからない。

「いつまで経っても成長しない俺たちを見るに見かねたんだろう。アイツらしいな」

 日鞠は私の思いを昇華させるために一芝居打ってくれたのだ。
 こうして切羽詰まらなければ、私は卒業するまでウジウジとしているだけだと彼女はわかっていたのだと思う。

「ふたつ目。俺が好きなのは門脇じゃない」
「……へ?」
「なんでそんな誤解を?」

 どうしてなのかと聞かれても、返答に困って言葉がすぐに出てこない。
 私は日鞠にどんなに否定されてもそう思い込んできたのだ。

「だって……水上くんは日鞠には気さくに話しかけてたでしょ? 中学のころからずっと……」
「門脇は木南と仲がよかったからな。陽気なキャラの門脇に話しかければ、隣にいる木南とも自然と喋れるんじゃないかと小賢しいことを考えてた」

 ポカンとする私にチラリと視線を送った水上くんは、バツが悪そうにクシャリと前髪をかきあげる。
 そんな姿まで綺麗で、見惚れそうになった。

「ずっと好きだったのは、俺もなんだ」
「え?」
「俺が好きなのは門脇じゃなくて、木南だ」

 一瞬、自分の耳がどうかしてしまって幻聴が聞こえたのかと思った。
 だけど射貫くようにじっと見つめてくる水上くんの顔が真剣そのものだから、これは現実なのだと次第に理解し始める。

「木南、好きだよ」

 頭はクラクラとしてめまいを起こしそうなのに、気持ちはフワフワとしたまま胸が高鳴って仕方ない。

「なんで泣くの」
「ごめん。なんか、信じられなくて。私は地味だし……日鞠のほうが明るくてかわいいのに……」

 感動して両目からポロリと涙がこぼれる。
 彼があわてて手を伸ばし、親指でそれを拭ってくれた。