「俺に聞きたいことってなに?」

 左胸を押さえてなんとか落ち着こうと必死な私をよそに、水上くんが本丸を攻めてくる。私が彼を呼び出したのだから当然だ。
 フーッとひとつ深呼吸をしたあと、壁に背を預ける彼を正面から見据えた。

「えっと……水上くん、引っ越しするの?」

 率直に質問をぶつける私に、水上くんは一瞬ポカンとしたあとゆっくりうなずいた。

「門脇から聞いたのか」
「どうしてみんなに言わないの? いきなり消えたりしないよね?」

 担任の先生から彼が転校することは未だに伝えられていない。
 もしかしたら親しい友達にはすでに話しているのかもしれないが、学校に来なくなったあとに先生から事後報告をされても、クラスメイトはみんなお別れの挨拶ができない。
 本人はそれでいいと考えているのだろうか。

「湿っぽい空気になるのは嫌? でもみんな水上くんが黙って転校するのは寂しいよ」
「……え?」
「私だって、高校も一緒に卒業できると思ってたのに」

 恨み節を言い募るはずではなかったが、懸命に喋るうちに責めるような言葉が出てきてしまった。これは想定外だ。

「木南も、俺と離れるのは寂しい?」
「そ、それは……もちろん寂しい」
「ふぅ~ん」

 必死な私とは反対に、水上くんはふわりと余裕の笑みを浮かべた。なにもおかしなことは言っていないと思うけれど。

「私ね、水上くんが好きなの。中学のときからずっと好きだった」

 意を決して自分の気持ちを言葉にしたら、一気に顔に熱が集まってきた。おそらく今、驚くくらい赤いだろう。
 緊張で声は震えていたけれど、勇気を振り絞った自分を素直に褒めたい。

「今の、マジ?」
「最後に自分の気持ちを伝えたかったの。でも、水上くんは日鞠が好きなんだから告白されても迷惑なだけだよね」

 相当困らせてしまったのか、彼は右手で口元を覆ってフイッと私から視線を逸らせた。

「あの、本当に自分勝手でごめんなさい!」
「いや、違うんだ。木南はふたつ勘違いをしてる」

 言われた意味がわからないままうつむいていた顔をあげると、水上くんの透き通った瞳と視線が交錯した。
 真っ直ぐに射貫かれた私は、それだけで身動きが取れなくなる。