「文化祭当日までは来るらしいよ。転校はそのあとかな」
「そうなんだ……」

 日鞠が懸命に私の表情をうかがって気を使っているのはわかっているけれど、今の私は愛想笑いすら上手にできない。

「透桜子、こうなったら選択肢はひとつしかないでしょ!」
「……なに?」
「いなくなる前に気持ちを伝えるの!」

 なんでもないことのように言う日鞠に対し、私は顔の前で右手をブンブンと大げさに横に振った。

「それは無理!」
「中学から好きだったんだから、このままだと絶対後悔する。あとになって、やっぱり伝えておけばよかったって思っても遅いんだよ?」
「でも、水上くんは日鞠のこと……」

 そこまで言ったところでハッとして言い淀んだ。だが時すでに遅しで、日鞠は途端にあきれ顔になる。

「まだそんな誤解をしてるの?」

 水上くんは日鞠を好きなのだと思う。
 日鞠は根も葉もない憶測だと言うけれど、中学のころからふたりを見てきている私がそう感じるのだ。

「日鞠はいつも真っ直ぐで眩しいくらい輝いてるから。根暗な私とは大違いだもん」

 太陽みたいに明るい日鞠は、水上くんの隣にいるのがよく似合う。

「べ、別にひがんで言ってるわけじゃないからね。本気でそう思ってるの」

 あまりに悲観的すぎる言葉を口にしてしまい、私はあわてて取り繕った。
 日鞠は気を悪くすることもなく、フッと口元を緩める。

「いつも真っ直ぐで眩しいって……それは私じゃなくて透桜子でしょ」

 彼女の表情を読み取っても冗談を言っているようには見えなくて、私は「へ?」という気の抜けた返事しかできない。

「水上くんもきっとそう思ってるんじゃない? 透桜子は自己評価が低すぎる」

 日鞠はやさしいからいつも私を元気づけてくれて、自信を持つようにと励ましてくれる。
 だけど私は昔からウジウジと悩んでばかりで、ちっとも前に進めない。

「ま、とにかく。文化祭当日が最後のチャンスだよ。その日しか残ってない!」

 そんなふうに鼓舞されても、肝心の私は水上くんに気持ちを打ち明けるシーンを想像するだけで、緊張して身体が硬くなってくる始末だ。
 ずっとこんな調子でどうするのだと自分でも思うけれど、なかなか臆病な部分は直らない。

「透桜子、勇気を出して? なんでも協力するし、全力で応援するから。ね?」

 日鞠が私の両手を包み、真剣な眼差しを向けて言ってくれた。
 親友をここまで心配させていたのかと、少し驚くくらいに。

 内向的な性格のせいで、長年思いの丈を伝えることができず、だからといってあきらめられずで、ずっと未練がましく彼を目で追うだけだった。
 日鞠の言う通り文化祭当日が最後になるなら、私もありったけの勇気を出してみたい。
 苦笑いしながら「ありがとう」とうなずくと、日鞠はパッと花が咲いたように笑ってくれた。