「これ、アレだよな……インドの」
「……ガネーシャ」
「そう、それ」

 ガネーシャは象の顔を持ち、お腹がぽってりとした愛らしい姿をしているヒンドゥー教の神様だ。
 幸運や財産をもたらすと言われていて、インドでは広く知られている。

「インドっぽいベースに、私なりのアレンジを加えてみたんだけど……変かな?」

 急に不安にかられて尋ねてみると、水上くんは爽やかな笑みをたたえて首を横に振った。

「めっちゃうまいじゃん。センスいいな」
「本当? これを参考にしてみたの」

 机に置いていたスマホを手に取り、画面に映し出されている一般的なガネーシャの画像を彼に見せた。

「さすが木南だな。使ってるのはマスキングテープだけだろ? なんでこんなすごい絵が描けるのか不思議だ」

 腕組みをしながらボードに目をやる水上くんの横顔が綺麗で、思わず見惚れそうになる。

「昔から木南は絵がうまいよな。絵心のない俺からすると天才的に」
「そ、そんなことないよ! 勉強も運動も出来る水上くんのほうが絶対にすごいと思う」

 握り拳を作って力説すると、水上くんは照れたように私から視線をはずした。彼の顔が少し赤いのは気のせいだろうか。

「続き、がんばれよ」

 私の頭の上にポンと軽く手を置き、作業のことで確認があるのか水上くんは日鞠の元へ行ってしまった。
 時間差で私の頬は火が付いたように熱くなり、心臓が痛いくらいに鼓動し始める。

「手伝えなくて悪いな」
「ううん。しょうがないよ。気にしないで」

 詳細な内容まではわからないが、ふたりは最後にそんな言葉を交わしていた。
 軽く右手を上げて立ち去る水上くんに対し、日鞠が明るい口調で「お疲れ~」と声をかける。

「ちょっと透桜子! なんかいい感じだったんじゃない?」

 日鞠がニヤニヤしながら近寄ってきて、人差し指で私の腕をちょんちょんと突っつく。
 彼女には中学のころから私の片思いのことは伝えてある。
 おこがましくてほかの誰にも言えないこの気持ちも、親友の日鞠にだけは言えた。

「私、普通に話せてたよね? 変じゃなかった?」

 真面目な顔をして確認をすると、彼女は半分あきれたように笑ってうなずいた。

「まだ緊張するの?」
「するよ。水上くんは特別。ところで、なにか日鞠に謝ってたみたいだけどどうしたの?」

 再びマスキングテープを手に取りながら、なにげなく尋ねたのだけれど。
 日鞠は私から視線を外し、右手をこめかみに当てながらしばし考え込んだ。