「中学のとき、書いてるノートの字を見てすごく綺麗だと思った。昔から木南は勉強もできるし真面目だったよな。でも極めつけは絵だった」
ずっと前から私のことを見ていてくれたのだと実感したら、また涙があふれそうになる。
たしかにマスキングテープで描いたガネーシャの看板を、水上くんはすごく褒めてくれていた。
「木南が描く絵は繊細で、めちゃくちゃうまかったから。心が澄んでて綺麗なんだろうな、って惹かれたんだ」
「わ、私のほうこそ、文武両道でカッコいい水上くんが好きだったけど、ずっと片思いだと思ってた」
「それは俺も。木南は恋愛に興味なさそうだったし」
彼がやわらかな笑みを浮かべたのを見て、私も苦笑いを返した。
どうやら私たちは最初から互いに片思いをしていたらしい。
「日鞠は中学のときから気づいてたのかな?」
「たぶんな」
私の片思いを最初から知っていた日鞠が、途中で水上くんの気持ちに気がついたときには、相当ヤキモキしたことだろう。
日鞠には申し訳ない気持ちを抱くと共に、ずっと見守ってくれていた彼女のやさしさに感謝したい。
「片思いは今日で卒業だ。俺と付き合ってほしい」
彼の言葉にコクリとうなずいた。
照れくさそうに微笑む水上くんを間近で見ているだけで、胸がキュンとして仕方がない。
「水上くん、ありがとう。奇跡が起きたみたいで、まだ信じられない」
左胸を押さえながらつぶやくと、彼は私の頭をゆっくりと撫でた。
「卒業式の日に『卒業おめでとう』って言い合えるんだね。話せるのは今日で最後だと思ってたから『大学でもがんばって』とか、それらしい言葉で締めくくるつもりでいたの」
長年思い続けた気持ちを伝え、フラれたあとにそう言って立ち去ろうと考えていたのだ。
それがこんな結果になるなんて、まったく予想していなかった。だから私の中では奇跡だ。
「木南の第一志望は慶菖大だろ? 俺もそこを受験する。受かったら同じ大学に通えるな」
「本当? 私、受験勉強がんばる!」
「スパートをかけなきゃな。……俺にパワーをわけてくれないか?」
そっと腕を引かれて一歩前に進むと、水上くんとの距離がぐっと近くなった。
彼の逞しい胸板が目の前に広がっていて、たちまち身体に緊張が戻ってくる。顔はまた真っ赤だろう。
「こっち見て」
低くて穏やかな彼の声音が私の心を震わせる。
顔を上げると、大きな右手で頬を包まれ、触れるだけのやさしいキスが落ちてきた。
――まるで、桜の花びらがふわりと舞い降りてきたみたい。
「文化祭、俺と一緒に回ろう」
よく見ると水上くんの顔も心なしか赤い気がする。
彼が私の手を引いて廊下に出た。
誰かと恋人繋ぎをして歩くのは、人生で初めてだ。
高校の卒業式は来年の春。
その前に、私と彼は長い片思いから卒業した――
今日はそんな私たちの記念日だ。
―― end.
ずっと前から私のことを見ていてくれたのだと実感したら、また涙があふれそうになる。
たしかにマスキングテープで描いたガネーシャの看板を、水上くんはすごく褒めてくれていた。
「木南が描く絵は繊細で、めちゃくちゃうまかったから。心が澄んでて綺麗なんだろうな、って惹かれたんだ」
「わ、私のほうこそ、文武両道でカッコいい水上くんが好きだったけど、ずっと片思いだと思ってた」
「それは俺も。木南は恋愛に興味なさそうだったし」
彼がやわらかな笑みを浮かべたのを見て、私も苦笑いを返した。
どうやら私たちは最初から互いに片思いをしていたらしい。
「日鞠は中学のときから気づいてたのかな?」
「たぶんな」
私の片思いを最初から知っていた日鞠が、途中で水上くんの気持ちに気がついたときには、相当ヤキモキしたことだろう。
日鞠には申し訳ない気持ちを抱くと共に、ずっと見守ってくれていた彼女のやさしさに感謝したい。
「片思いは今日で卒業だ。俺と付き合ってほしい」
彼の言葉にコクリとうなずいた。
照れくさそうに微笑む水上くんを間近で見ているだけで、胸がキュンとして仕方がない。
「水上くん、ありがとう。奇跡が起きたみたいで、まだ信じられない」
左胸を押さえながらつぶやくと、彼は私の頭をゆっくりと撫でた。
「卒業式の日に『卒業おめでとう』って言い合えるんだね。話せるのは今日で最後だと思ってたから『大学でもがんばって』とか、それらしい言葉で締めくくるつもりでいたの」
長年思い続けた気持ちを伝え、フラれたあとにそう言って立ち去ろうと考えていたのだ。
それがこんな結果になるなんて、まったく予想していなかった。だから私の中では奇跡だ。
「木南の第一志望は慶菖大だろ? 俺もそこを受験する。受かったら同じ大学に通えるな」
「本当? 私、受験勉強がんばる!」
「スパートをかけなきゃな。……俺にパワーをわけてくれないか?」
そっと腕を引かれて一歩前に進むと、水上くんとの距離がぐっと近くなった。
彼の逞しい胸板が目の前に広がっていて、たちまち身体に緊張が戻ってくる。顔はまた真っ赤だろう。
「こっち見て」
低くて穏やかな彼の声音が私の心を震わせる。
顔を上げると、大きな右手で頬を包まれ、触れるだけのやさしいキスが落ちてきた。
――まるで、桜の花びらがふわりと舞い降りてきたみたい。
「文化祭、俺と一緒に回ろう」
よく見ると水上くんの顔も心なしか赤い気がする。
彼が私の手を引いて廊下に出た。
誰かと恋人繋ぎをして歩くのは、人生で初めてだ。
高校の卒業式は来年の春。
その前に、私と彼は長い片思いから卒業した――
今日はそんな私たちの記念日だ。
―― end.