「なんだ」
 イチヤは椅子に座る。サクラは相変わらずだ。

「おれ、辞める。アイドル卒業!」
 チュウジは両手をガッとあげて叫んだ。本当に彼の声はよく通る。
 イチヤもだがサクラも体を起こすほどびっくりすることだった。しかしスタッフたちは特に何もなかったかのように片付けをしている。

 しかしまたあれほど盛り上げ上手で1番人気の彼がである。

「辞めるって、どういうことだよ。これからも頑張るぜ! って盛り上がってたろ」
「何を言う、ファンに不安を与えることはしたかねぇよ。いきなりじゃないし、もう2年前からマネージャー、社長には相談してた」
 だから周りのスタッフたちは驚きもしなかったのか……とサクラは慌ててネットで何か調べている。

「噂は本当だったんだな、チュウジがソロに力を入れているのは卒業するためだと」
 サクラは噂の掲示板を二人に見せた。チュウジは縦に頷く。

「ああ、来年にはソロのファンクラブもできる。この日のために苦手な歌もボイストレーニングで日々頑張ってきたし、嫌なバラエティ番組で泥を被ったし……」
「チュウジ、何が不満だった? お前抜けたら2人に……」
 イチヤは動揺している。サクラは呆然としている。

「イチヤと2人になるなら俺も卒業したい……正直30後半でアイドルなんて無理っしょ」
「サクラ!」
 イチヤは狼狽えた。
「……だってイチヤのこと嫌いだけどチュウジがいるからやってたし」
 サクラはまたスマホを触ってる。イチヤはどう言うことだと言う顔をしている。自分が嫌い? 動揺している。

「まぁたしかに昔からサクラは気に食わなかったんだよお前のこと。結成当初はメンバー多かったから気づかなかったかもしれんけどさ」
 チュウジは知っていたようである。そう、彼らはもともと3人ではなかった。