城の中は、期待以上に素晴らしいものだった。
 美しい見た目をした女中や家臣がたくさん、愛らしくせっせと働く小さなあやかし。
 和風な内装、今にもスズがなり出して何かがはじまりそうな予感がするような、漫画でしかないような世界観だった。

「す、すごい……!」
「このぐらい普通だ。」
「普通じゃないですよ……!!こんなの、生まれて初めて!」
「……そうか?」
「はい!」

 目を輝かせて嬉しそうにする鈴を見て、心が躍る鬼堂。

「なら鈴のための部屋をすぐに用意させよう」
「えっ?そ、それは結構ですよ!すぐ帰るつもりですし」
「安全が確保できるまでは俺の側にいた方がいい。大人しく従ってくれれば、可愛らしいあやかしと触れ合い放題だぞ」

 そう言われて視線を移せば、にっこり微笑む小さなあやかしたちがたくさん。
 美鈴とはまた違った狐型の九尾のあやかしが多くて、つい胸が躍ってしまう。

「っ……わ、わかりました……!でもすぐ家には返してくださいね」
「ああ、わかっている」

 ポンッと頭を撫でられる。

「んなっ……!」

 ボッと赤くなってしまった顔を必死に隠そうと、距離を取って顔を覆う。

「まさか照れているのか?」
「う、うるさいです……!」
「愛らしいな」
「っ……!!」

 にっこり微笑みご機嫌な鬼堂だが、周りで働くものはヒヤヒヤしていた。
 鬼堂が今まで、そんな表情を見せたことがないからだ。
 それどころか、笑っているところさえ見たものはいるのだろうか?
 使用人たち一同、鈴が番の方だと理解した瞬間、姿勢がガラッと変わる。
 そして鬼堂の信頼する1人である九尾の美しい男が寄ってくる。

「こちらが当主様の花嫁様で?」

(えっ、当主様?)

 ポカンとしてしまう鈴を見つめて、九尾が口を開く。

「これはこれは申し遅れました、私当主様の側近である七瀬泉と申します」
「あ、三上鈴です」