「あの……ここ、とっても綺麗ですね」
「ああ。ここが一番街を見渡せる場所だからな」
 よく見れば、後ろには大きな城のような建物がある。なぜ城の前にいるのかは理解できないものの、とにかくこの場所からの景色がいいことだけはわかった。
「ところで……どうしてここに連れてきたんですか?」
「一番安全だからだ。花嫁を傷つけるわけなかいかないからな」
「だ、だから花嫁じゃないですって……」
「人間のお前からしたらわからないだろうが……あやかしであるこちら側からすると、どうしようもないんだぞ」
「どうしようもない?」
「ああ。お前のことが愛しくてたまらないんだ。まるで、前世から一緒にいたかのような感覚がする」
「っ……!?」
 不意に愛しいと言われてしまったものだから、つい動揺して焦りが隠せなくなってしまう。
 鬼堂は相変わらず余裕そうに微笑んで、鈴のことを愛おしそうに見つめていた。
「城の中に入るか」
「か、帰ります……!」
 どこかに歩いて行こうとすると、ぎゅっと細い手首を握りしめられる。
「だめだ。危ないと言っただろ」
 先ほどとは一転、とても真剣そうな顔をする鬼堂。
「な、何が危ないんですか……!?」
「お前は俺の花嫁になった。つまり……敵対する鬼塚家に狙われる、というわけだ」
「い、意味わかんないです……!」
「ああそうだろうな。だからこちらにいろと言っている」
 真剣な眼差しを向けられて、鈴は目を逸らす。
「い、嫌です」
「だめだ」
「っ……じゃあ、条件があります!」
 今度は一切晒さずに、目が合わさる。
「なんだ?」
「先ほどから言っている通り、当主様に合わせてください!」
 鈴がそう言うと、また面白そうに微笑まれる。
「いいだろう。では行くぞ」
 鬼堂の言葉と共に、ぎゅっと手を握られて城の方へと引かれて行った。