「当主だと……?」
 低い声が耳に届き、ビクッと肩を震わす。
「お前……随分と生意気だな」
 顎に手を当てられて、上を向かされる。
 ようやく見えていなかったその顔とツノが見えて、目を大きくさせた。
「気に入った。俺の花嫁にしてやろう」
「はぇっ……?ご、ごめんなさい、私は当主様に用事があって」
 焦りながら鈴がそう言っている間に、あやかしたちが周りに集まってくる。
「どういうことだ?今花嫁様と聞こえたのだが……」
「嘘だろう?あの方があんな平凡な娘をお選びになるだなんて」

(あの方……?へ、平凡な娘って私……!?失礼なっ……!!)
 少しムスッとするも、目の前にいる鬼をジーッと見つめる。
 鬼はあやかしの中でもトップの位だ。この人なら、何か知っているかもしれないと踏んだ鈴。そんな中、花嫁と言われた瞬間から絶えない嫌な視線。
 ヒュンッと音がして、先が鋭くなった矢が飛んでくる。
 けれど鬼の男が鈴の肩を抱いて避けたため、大事には至らなかった。
「っ……!な、何今のっ……」
「矢だな。お前が俺の花嫁になったからだろう」
「は、花嫁になった……?」
「ああ。お前は俺の番だ」
「つ、番……!?いやいや、まさか……!」
 ドクリドクリと心臓の音が増して行く。この男が飛び抜いて綺麗な顔をしているなのか、はたまたどこかからくる恐怖なのか正体はわからなかった。
「わからないのか?これほどに胸が高鳴っているじゃないか」
「へっ……!?」
(そ、そうなの!?)
 やはりこの胸のドキドキはそっちだったのか、と考えるもそんな暇もないぐらいに、辺りは敵ばかりになっていたのだ。
 だけど鈴はそんなことを知る由もないので、ただこの鬼とどう離れようか考えるばかりだった。