「それで?その猫又をどうしろと」
「きょ、許可が欲しいんです。あやかし……美鈴が現世にいてもいい許可が。その許可がないとあやかしは現世にいれないんですよね」
「ああそうだな。でもだめだ」
「な、なんでですか……!?」
「いいや、許可はやってもいい。だがそれじゃ不平等だ」
「不平等……?」
「俺の願いも聞いてくれ」
 にぃっと微笑んだ鬼堂に、ゾゾゾッと背筋を凍らせる。
「い、いやぁ〜でも、当主様なんですよね?つまり……えっと……領主様みたいなものでしょ?だから、民のお願いぐらい聞いてくれてもいいかなぁって……」
「確かにそうだな、俺は領主でもある。それにお前は特別だ。だけど、この俺に借りを作られるだなんて危ないとは思わないのか?」
「た、確かにそれはそうですけど……」
「じゃあ決まりだ。ちゃんと番になれ」
「だ、だから嫌です!!私、好きな人と結婚するって決めてるんで」
 そっと肩を押して、大きなソファに鈴を押し倒した。
「えっ、えええっ……!?」
「ハイストップ!!」
 近くで浮遊しながら見守っていた狼が鬼堂の頭をポコッと叩いた。
「何をする」
「僕の主人様は鈴様ですから。鈴様に不適切なことをしようとするヤツは許しません」
「……俺はただ、コイツを嫁にしようとしているだけだ」
 ギロッと狼を睨みつけた鬼堂。鈴はその隙に離れて、壁の隅の方へ行った。
「鈴、悪かった」
 近づけば近づくほど、震える鈴。
 狼が鬼堂を見て、クスクスとバカにするように微笑んでいた。
「本当にすまなかった。だからそんな顔をしないでくれ」
 いつのまにかもう間近になっていて、優しく頬を撫でられる。
「んっ……」
「……怖かったよな、気をつける」
「は、はい……あの、やっぱり無理です」
「……何?」
 眉間に皺を寄せる。
「花嫁なんて、私にはできません……!」
「む……」
(ここで無理矢理花嫁にしたら、今度こそ本気で嫌われてしまうかもしれない……)
 ジーッと目を瞑って考えた鬼堂は、いい提案を思いつく。
「では……俺の世話係、召使いになると言うのはどうだ?」
「召使い……?」
「どちらにせよ、今常世、現世に戻るのは危ない。花嫁になって欲しい気持ちは山々だが、お前に無理をさせたいわけでもないからな」
「え、えっと……じゃあつまり、一定の期間鬼堂さんの召使いになればいいんですね?」
「ああ。その間に絶対惚れさせてみせるから」
「っ……!そ、それはどうだかわかりませんが、その提案、乗りました!」
 コクリと頷く鈴。少し嫌な予感はするものの、花嫁にされるよりかはよっぽどマシなので内心ホッとしている自分がいた。