「あれ、美也ちゃん帰らないの?」
「ちょっと寄ってくとこあるんだ」
「そっか。またねー」
「ばいばい、舞弥ちゃん」
いつもとは違う方に駆けだそうとした美也を見て声をかけてきた友達に手を振って、美也は足を急がせた。
今日という日は、美也が自分に約束をした日だった。
一気にあがることも慣れた階段を上り切る。見える世界に広がるのは、小さなあやかしたち。
「巫女様!」
「ごきげんよう巫女様!」
「ごきげんよう、みんな」
美也は軽く笑いながら返事をする。榊の庇護下にある小さなあやかしたちの間ではこの挨拶がはやっていた。
「榊さん、います?」
「おられますよ! 呼びましょう!」
『さーかーきーさーま!』
「わかったわかった、大合唱はちょっとうるさい」
庭にいた小さなあやかし全員に呼ばれ、堂の方から榊が姿を見せた。
呼ばれた理由が美也がいるからだとわかった榊は途端に嬉しそうな顔になる。
「美也!」
「お、お久しぶりです、すみません、最近来られなくて」
「理由はわかっているから謝ることなどない。受験……どうだった?」
「今日が本命なので、やることはやりきりました。どうなっても後悔はないです」
「そうか……がんばったな」
いい子いい子、と榊が美也の頭を撫でる。
美也はいつも通り嬉しくてにへら~としそうになったが、今日ここへ来た目的を思い出して顔を引き締めた。
「あの、あのですね、榊さんにお話することがありまして……」
「なんだ?」
「―――」
男性のはにかんだような笑顔と、榊の神々しさで美也はノックアウトした。
「美也!? 大丈夫か!?」