「………」

前世、天界最高神の龍神の巫女は忽然と姿を消した。

それが、瘴気に取り込まれていた? 榊や最高神の龍神がいくら探しても見つからなかった。

すり、と目を閉じたままの美也が榊の手に自分の頬をこすりつけた。

「美也?」

「んん~、ちゃんと撫でてください~」

「あ、ああ……」

美也が目を閉じたまま言葉を発したので、寝ぼけているのか起きているのか榊は判別しかねたが、美也の言う通り頬や頭を撫でる。

すると、美也の顔はにへら、とゆるんだ。まだ目は開けない。

「そーですそーです。ねえ榊さん、約束、憶えてますか?」

「約束?」

榊が返すと、美也はぼんやりした声で答えた。

「二人で幸せになりましょう、って……」

「―――」

「あれ? お前は幸せになる、でしたっけ? う~ん? よくわからない……まあどっちでもいいです。榊さん、私のこと迎えてくださいね」

ぼんやりした美也の声。

「―――」

帯天の膝に頭を載せたままの美也を抱き寄せて、きつく腕の中に閉じ込める。

「……え? 榊さん? あれ? あの……?」

今意識が戻ったというように、美也は慌てた。先ほどは寝ぼけていたのだろうか。

「美也……ありがとう」

「え? どうしたんですか? 私、なんかしました? あ、帯天さん、こんにちは」

帯天は慌てたようにこくこくとうなずいた。

美也が帯天に二度目の挨拶をしたことから、先ほどのことを憶えていないとうかがえる。

「榊さん? ……大丈夫、ですか?」

「ああ……」

榊が言葉を贈ったのは、巫女に対してだった。

お前は幸せになる、と言葉を贈ったのは、美也にだった。

――巫女は榊のことを、榊様、と呼んでいた。

……美也と巫女を分けて考えなければいけないと、榊は自分を戒めてきた。