「あの時も言っていたが、また少し眠ることにはなるかもしれない。何故禁忌とされたかと言うと、過去、天界のある龍神が人間を操ろうとして騒ぎなった一件があるんだ。それ以来、天界の龍神が地上に関わることを禁止された。眠っている間は何にも干渉できないから、自分の領地に侵入者があっても対応できない――自身が殺される可能性もあるから、神格は滅多に代償を負わないようにしているんだ。だがあいつは基本的に人間大好きだから、ちょいちょい降りてきて代償を受けている」
榊がため息をつきつつ言うと、美也は泡食った。
「お姉様危ないじゃないですか! もう二度と降りてこないように言わないと!」
「無理だと思うぞー。あいつ、自分の巫女を溺愛してただけじゃなくて人間そのものを溺愛してるから。いつも人間の傍にいられる俺に、地位を交換しろ、と言ってきたこともあるくらいだからな」
急に榊の態度がだるそうになった。
「お、お姉様……」
美也、引いてしまった。
随分明るい性格だと思っていたけど、そういうのを慈悲深いというのだろうか? ……考えてしまうところだ。
「それで……その、お姉様の巫女が行方不明になったから、ふられた、ってみんなは言っていたんですか?」
「まあ、そうだな。不可解な失踪だったから、あいつが気づいていないとはいえ自分からいなくなった可能性も完全には捨てられなかったからな」
自分から……美也はそれを否定したい気持ちだった。
でも、前世のことを何も知らない自分が断じてしまっていいのだろうか。下手な慰めだとか思われないだろうか。
「なんて言うか榊さんって……」
「うん?」
「執念深いですね……」
「……いい方に解釈できんのか」
「いい方に解釈してそれです」
誤魔化すような言葉になってしまった。
「俺やばいな。……まあそんな戯言は置いておいて」
「はい」
背筋を正した美也の顔を、榊が覗き込んでくる。
「美也は時々、俺と一緒になることや巫女となることを肯定する言葉を発している気がするんだが……」