美也はこくりと唾を呑んだ。

「……結婚したことがないって、開斗くんが言っていましたけど……」

「する気になんかなれなかった。行方不明の恋人だった。……美也が生まれて、あの子だってわかって、ただ嬉しかった。あの子が生まれてきたことが嬉しい、ではなかった。輪廻の輪の中にいたということは、人として前世を終えたということだ。俺たちの手の届かないところのことだったが、生まれてきた美也の心は綺麗だった。前世で何があったかはわからないが、辛さの中で生涯を終えたのではないことは、わかった」

「………」

辛さの中で。

失った存在の生まれ変わりが突然現れて、困惑しなかったのだろうか。

何があったと訊かれたこともない。ただただ、本当に榊は見守ってきてくれた。

「でも、魂が同じでも、美也と同一人物というわけではない。この子にはこの子が生きる道がある、と自分に言い聞かせて、今度は見守る立場だけでいようと思っていたんだ。……思っていたんだが……美也を好きになった。生まれ変わりだからという理由で、美也のことを好きにならないようにしていたのに、また、惚れてしまった。今回は早々に天界の奴らから発破をかけられていたが……茉也と友哉は、美也にはあやかしと関わりなく生きてほしいと願っているのも知っていたから、巫女の要請の話もずっとしなかったんだ」

「………」

美也の知らない話から、榊の優しさがあふれてくる。

自分の前世は、それはそれは大切にされていたのだろう。

そして、自分も……。

「榊さんと婚約者だった……って、お姉様は知っていたんですか?」

「知っていた、俺と結婚すればあいつの巫女ではいられなくなることも承知で、あいつは送り出す準備をしていた。いなくなった場所はあいつの管轄だったから、狂ったように探していた。……申し訳ないと、俺に土下座してきたこともあった。それくらい、あいつは自分の巫女を大事にしていた。……美也が生まれ変わりだと教えたとき、あいつすぐに地上に降りてきたんだ。美也がまだ赤ん坊の頃。天界の龍神が地上に干渉する禁忌を犯してしまったから、つい最近まであいつは眠りについているしかなかったんだ」

「赤ちゃんの私に逢いに来たから、眠っていたんですか?」

「そうだ。そしてあいつも、巫女の生まれ変わりだと確信した。代償というのだが、神格にはついてまわるものなんだ。おかげで茉也と友哉の事故があったときも、眠ったままで起きてくることは出来なかった」

そう聞いて、美也ははっとした。

「じゃあこの前私の前に現れたのも――」

何かしらの代償が発生してしまうのだろうか――