「振られてないじゃないですか」

結婚の約束もしていたということか。

「そこまではな。ただ、正式にほかの神々にその話を通す前に……あいつを祀っていた神殿にいた巫女は、忽然と姿を消してしまったんだ」

意気消沈した様子の榊は、やはり傷ついているのは榊だと美也に思わせた。

「え……誘拐?」

天界最高神の龍神の巫女ならば、神殿とやらにいてもおかしくはない。

美也はまず、自発的に姿を消した線は考えすらせずにそう言っていた。

「わからない。あの頃――巫女は、あいつの堅固な守りの中にいた。自身の意思で抜け出していたらあいつが気づいていただろうし、何者かが侵入していても察知していたはずだ。だが、気配が動いた様子もなく、あとかたもなく……」

消えてしまったというのか。

龍神がどれほどのことを出来るのかは美也にはまだわからないが、つまりは天界最高神の龍神が護っていた空間から巫女はいなくなったということだろう。

「……それで、見つかったのですか? 心当たりは?」

「いや……俺やあいつ以上の神格なら、やれないこともなかっただろう。だが、俺たちから格上に接触する方法はなく、探しても見つからなかったんだ。そして……数千年の時を超えて、美也が生まれてきた」

榊の話を聞いた美也は、自分の胸に手を当ててみた。

前世とやらが何かわからないかと思ったのと、自分の命が今あるのはなぜだろうと思ったからだ。

天界最高神の龍神の巫女が自分の前世というならば、人間として生を終えたのだろうか。どうして消えてしまったのだろう?

「それと、この前の補足になるんだが、月御門と逢った時言った、隠し事はないというのはあの時点の俺には本当だった。この話は俺にかけられた制約ではなく、あいつにかけられた制約だった。あいつの巫女の話で、俺にとっては互いの間で結婚の約束をした――という状態で、まだ正式に婚約者とかではなかったんだ。だから、関係性に唯一名前のつくあいつにとっての制約となって、あいつが意識的にその話が知られることを許したから、俺も話せるんだ。……まあ、ややこしい神格の縛りと思ってくれたらいい」

「そう、なんですか……」

美也は傷ついてはいないが、心の中が複雑になってきた。

では、自分は榊にとって――