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「その、前の……というのはな……」
「はい」
神社の裏手にある、住まいになっている場所の縁側に並んで腰を下ろした美也は、榊から説明を受けていた。
もとは居住している人がいたようだが、無人の神社となった場所を榊が勝手に直して住んでいるらしい。
小さなあやかしたちは二人の前で楽しそうにころころと遊んでいた。開斗もその中にいる。
榊は神妙な顔で、美也は疑うように目を皿にしながら聞いていた。
「……この前あいつが話した、美也の前世……だ」
美也の先祖だという龍神の女性が、美也にそう言っていたのを思い出す。
「えっ。そうなんですか? 全然心当たりがない……」
美也に前世の記憶はないし、ましてや榊を振ったなんて。
……美也の先祖の巫女だった人が、なんで榊を振るという話になるんだろう。
「基本的にそうなんだ。前世の記憶を持って生まれる人間もいるが、それはごく一部で、それも成長するにつれて消えてしまう場合が多い」
「……私が小さい頃は憶えていた……とかそういうことですか?」
「いや、そういうわけではない。ただ、俺が勝手にそうだとわかっただけだ」
勝手にわかったのか。仲がいいようではないけれど、面識のある神様の巫女だとすぐにわかって、今世では自分の巫女に望む……? 美也は経緯がよくわからなかった。
順番に疑問を口にすることにした。
「お父さんとお母さんも知っていたんですか?」
「……ああ。二人には、俺から話した」
両親も把握していた。
この話を簡単に整理するならば――
「……前世の私はお姉様の巫女で、高飛車にも榊さんを振ったんですか?」
……ということだろうか。榊の顔色が悪くなった。
「いや……」
「なんですか、はっきりしてください」
口を濁す榊に言えば、今度は哀しそうな顔になった。「榊さん?」と呼びかけると、榊は少し黙ったあと口を開いた。
「……お前が傷つく話でも?」
――傷つく話? 傷つくのは、振られたと言う榊の方ではないのだろうか。
美也はこぶしを握る。
「……傷つくのは嫌ですけど、榊さんと私に関わることを知らないのはもっと嫌です」
美也が訴えれば、榊は瞳に複雑な感情を載せて美也を見てきた。
「……わかった。美也の前世で、俺とは――そうだな、二人の間では、婚約者だった」