「あたしの見る目がないとか、男の趣味が悪いとかそういうことなのよね。付き合ってる彼女がいるのに目移りするクソ野郎と付き合ってたワケよ。自分で言ってて笑けてくるわ」
はは、と自嘲する奏。美也は背筋を正して奏を見た。
「笑わないですよ」
「あん?」
「笑わないです。そのときそのときで、奏さんは真剣だったんですから。相手のことはどうでもいいです。奏さんが、真っすぐだったっていうことだけが事実です」
美也は奏の彼氏の顔もよく知らないが、奏が浮気をしたわけではない。
奏は真っすぐだったけど、それが届かなかった人たちだったのだろう。
「あんた……ほんとーにあのイケメンがいてくれてよかったね。あの人だいぶあんたの虫よけもしてたんじゃない?」
「? それって好きな人に異性が近づかないように、って意味ですよね? 私、誰にも榊さんを紹介とかしたことありませんけど……」
「美也、あの人――人って言っちゃうけど、人間じゃないのよ? 軽く超常現象起こせるでしょ」
「………」
(そうかもしれない!)
「そうかも……しれません……」
美也はうなりながらうなずいた。
――事実、今現在白桜や百合緋レベルに強い霊感がなければ見えないくらいに隠形(おんぎょう)した開斗と帯天が、美也と奏をつけていた。
二人で出かけると聞いて心配した榊が見張り兼護衛をつけようと考えていたら、開斗と帯天が立候補してきたのだ。
『帯天さん。巫女さまが飲んでるの美味しそうです。今度榊さまにおごらせましょう』
『………』
小龍の姿の開斗に、美也が出逢ったときの人の姿の帯天がうなずいた。
そんな二人の熱い視線を受けている美也は、二人には気づかずに奏と話している。
「んで? あんたの考えたあたしへの反撃ってほかにもあるの? 聞かせてみなよ」
「えっ、さ、さすがにそれは……」
「あたしのが結構なことしてたんだから、今更引かないわよ。怒らないし」
「ですが――」
「あれ、奏?」
ふと、男の声が降ってきた。
振り向いた奏が、小さく「げ」と言ったのが聞えた。
美也は誰だかわからなかったが、その男を見る奏は顔も嫌そうだ。
「……なんでいんのよ」