「親のことはあたしもわからないけど、あんたが嫌じゃなかったベールダウンもするしバージンロードも一緒に歩くわ」
「……へっ? ……それって結婚式……?」
「そうよ。おじちゃんとおばちゃんはもういなくて、家を出たあんたがあたしの親と連絡取らないってなったら、あたしはそうしたいわ。……だってあんたは、ばかにみたいにお人よしで、あたしなんかを赦しちゃうんだから、あんたは絶対、色んな人から祝福されて幸せにならなくちゃだめよ」
「……――――」
考えたことがなかった。自分が誰かと、幸せになることを。
榊に巫女となることを乞われていると知ったとき、そうなんだ、程度の軽い気持ちしかわかなかった。
嬉しいとか困るとか考えさせてほしいとか、そういったことは全く感じず、どこか他人事めいていた。
それが今、目の前の奏に結婚式のことを話されて、いずれそうなるんだ……とじわりと感じた。
榊を見上げると、榊は二、三度瞬いてから困ったような笑みを浮かべた。
その意味ははかりかねたけど、ついさっき自分が『いずれ榊の許へ――』と口にしたのを思い出して、急に顔が熱くなった。
慌てて目を逸らした。
榊から直接的な言葉を言われたことはない。
自分からも言ったことはない。けれど、現実は確実に動いている。
美也が目を逸らしたその影で、榊がガーンという擬音つきで傷ついたことと、奏には視えていない開斗が「ぷぷぷ」と笑って榊にアイアンクローを喰らっていることに、美也は気づかなかった。
「……奏」
そう、榊が名前を呼んだ。
「は、はい!」
奏が返事をすると、榊はなぜか奏を手招きした。
「?」
美也が首を傾げ、奏も疑問符を浮かべながら榊の許へ行くと、何やら二人小声で話している。
……美也、モヤモヤしてきた。
「そうなんですね! わかりました!」
榊から何か聞かされたらしい奏の目がキラキラしていた。
そして榊が恥ずかしそうだった。
「榊さん……」
美也が低い声で呼ぶと、榊は美也に顔を向けた。
「美也、デートをしよう」
「………は?」
怒ろうとした美也だが、突拍子のない榊の言葉に毒気が抜かれてしまった。
いきなりなんだ。