美也が真面目な顔で言えば、奏は疲れたように息をはいた。

それから奏は、榊に向かって頭を下げた。

「あたしが言えた立場じゃないのはわかってます。でも、あたしからしか言えないと思うので言います。美也のこと、よろしくお願いします」

そう言って頭を下げる奏は、まるで美也の家族のようで。

(……複雑に思われていたのは当然だと思う。でも、こんな風にも言ってくれるんだ……)

「……美也、お前に異論はないのか?」

榊が、美也に話を振ってきた。

「え……」

「この者が言った通り、美也が受けてきた傷は確かにあるだろう。美也は、この者がこの言葉を言うことにわだかまりはないか?」

「……」

榊に問いかけられて、美也は少し黙ったあと奏の前に膝をついた。

「奏さん」

「……」

「ありがとうございます」

お礼だった。美也が今、奏に言うことは。

「……あんた――」

「おじさんとおばさんが、私に興味がないことはわかっています」

――好きの反対は嫌いではない。興味がない、だ。

愛村のおじとおばは、美也に興味がない。

どうでもいいのだ。

本当に、住み込みの家政婦くらいにしか思っていないだろう。

「でも奏さんは私を見ていてくれたって……今、気づきました」

こうしてぶつかり合っていなかったら、美也が知ることはなかっただろう。

奏は、真正面から美也にぶつかってきた。傷つける言動では、確かにあった。それでも、奏は美也の真正面にいて、真っすぐ美也を見ていた。美也を視界に入れてすらいないおじやおばとは、違った。

「私はいずれ、榊さんの許へ行くと思います。でも、奏さんとは縁を切りたくはないです。おじさんやおばさんは……私のことは気にしないと思いますが……」

奏の思いを知らなかったから、今までこんなことを思ったことはなかった。

知らなかったし、美也の方から聞いたこともなかった。「私のこと嫌いですか?」と。

そんなことを自分から訊くなんて現実的ではないけれど――そのとき、ガシッと奏が美也の手を掴んできた。