「……あたし、今までの彼氏に美也の方が可愛いって言われてフラれてきたんです。……美也、あたしから見ても可愛いし、あたしたちが押し付けてきたからだけど料理もうまいし、あたし……美也に嫉妬してた。あたしの気持ち色々ごちゃまぜになって、……美也にひどいことしてた。……言っても意味ないかもしれないけど、ごめんなさい」
奏の懺悔を、美也が期待したことはなかった。
期待しても意味のないことだと思っていたし、奏がそんなことを思うとも考えていなかった。
だが、奏の心の中は美也の想像とは全然違っていた。
「………」
美也は、ゆるしていいのか、それともそもそもそんな選択肢すら自分にはないのかもしれないと思って黙ってしまった。
口を開いたのは榊だった。
「美也と仲良くしていく未来の可能性は、お前にあるか?」
榊さん、神様らしい尊大な態度だなあ、と思いつつ、美也は口を挟まないでいた。
奏は虚を衝かれた顔をして、そっと視線を下げた。
「……わからないです……。今更あたしなんかが、仲良くとか……したいけど」
最後の小さな声を、美也は聞き逃さなかった。
「え。したいんなら仲良くしましょうよ」
それは簡単なことだ。仲良くしたいと思われていて、美也も異論はないのだから。
「いやあんたが嫌でしょ? あたしどんだけのことしてきたと思ってるのよ」
「でも奏さん、さっき家で奏さんが言ったこと、間違ってないです。おじさんもおばさんも、私を施設に入れる選択肢もありました。でも、愛村の家に置いてくださって、私がお金とかに困って犯罪に走るようなこともありませんでした」
先ほど思ったことを口にすると、奏はぎょっとした顔になった。
「犯罪って……怖いこと言わないでよ」
「本当のことです。だから……実は私、今まで奏さんに割と反抗してきたんです。頭の中で」
「だから怖いこと言わないでよっ。頭の中であたしめった刺しにでもされてたの!?」
「コーヒーと称して醤油を出すつもりでした」
「ちっさっ! あんたの反抗地味だね!」
「呼び出されたときとか、ドアにコーヒーぶっかけてやろうと思いました」
「だから小さいのよ反抗が! あたしのことぶっ飛ばすくらい考えなかったの!?」
「怪我させたら犯罪じゃないですか」
「あんたってあたしがいじめてた割に丈夫よね……」
「私が自己肯定感爆上げ野郎なのは榊さんのおかげです」
美也は右手を自分の胸にあててドヤ顔で言う。
「野郎って……人間じゃない人と結婚することに、抵抗なかったの?」
「榊さんが年齢不詳なことに疑問を持たずに十年以上来ましたから、私も大概です」
「……あんたって……」